×

[PR]この広告は3ヶ月以上更新がないため表示されています。
ホームページを更新後24時間以内に表示されなくなります。













旅館を継ぎたくない。

自由に生きたい。ここから出たい。助けて………助けてよ。

誰か私をここから連れ出してほしい。

それは私の心の底からの願い。私はずっと、もう一人の私を押さえつけていた。

それはいい子でいなきゃいけなかったから。頭がよくて、聞き訳がよくて、そして誰にでも好かれること。

いつしかもう一人の私は、悲鳴を上げた。










真っ赤な炎が上がる中、少年たちは武器を構えてその炎を見るだけ。
炎が牙を向いたとき、コロマルは千枝をかばい、は陽介をかばった。はギリギリで攻撃をかわす。
シャドウ雪子はにやりと笑った。まだ一つもダメージを与えていない。どうしても隙がつけないのだ。
敵の動きが見極められない………。ぎりりとは唇をかんだ。

「ちっくしょぉー……こっちはやらっれっぱなしかよ!!!」

陽介が怒りの声を上げる。
確かにこのままではやられっぱなしで、攻撃も加えられない。
それにこちらにはペルソナを使う制限がある。ペルソナは精神力と体力を激しく消耗する。
このままペルソナを使い続ければ、いつしか体力と精神力を使い果たし、気を失ってしまうだろう。
は少し考えてから、武器を投げ捨てた。

!?」

「お、おい……?」

さ………ん?」

と陽介、千枝の三人は彼女の行動に目を疑った。
はふわりと笑ったあと、彼らに言う。

「私があの子の弱点を突く。あの子の弱点は氷結系の攻撃よ。
私は氷結系のペルソナに変えてあの子の弱点をつくから、みんなはその間に攻撃を加えて。
でも気をつけて欲しいことがあるの………。」

そこまで言って、は目をそらす。
彼女が目をそらした意味をは理解して、小さい声で呟いた。
その言葉に、陽介も千枝も振り返ってを見る。

「氷結系のペルソナに変えると、火炎系の攻撃に弱くなる。」

「…………ええ。そういうことね。」

は視線を元に戻した。まっすぐみんなを見て、の言葉に頷く。
その作戦は危険性が高い作戦。ひとつ間違えば、が大ダメージを受けてしまう。
陽介と千枝は反対したが、は譲らなかった。
ずいと彼女は前に出るとペルソナを変える。青い光が彼女を包み込んだ。
氷結系のペルソナ、キングフロストがうっすらの彼女の影に浮かびあがる。
こぐりと三人はつばを飲んだ。

…………やるのか?本当に………」

心配してが声をかけると、は笑って答えた。

「ええ。大丈夫よ、だって私、信じてるもの。みんなのこと。そして自分のことも。」

「えっ………信じてる?」

言葉を反芻すると、こくりとは笑ったまま頷く。
そのままキリっと鋭い目をしてシャドウ雪子を捕らえる。今倒すべき相手は、シャドウ雪子だけ。

「分かった。みんな、行くぞっ―――――――!!!」

大きくが叫ぶのを合図に、燃え盛る炎をかわしながらみんなは走った。
が片手を上げて、ペルソナを発動する。

「ペルソナっ…………キングフロスト!!!ブフーラっ!!!」

の背後に浮かび上がったキングフロストは、彼女の言葉に合わせてブフーラを放つ。
氷と雪の塊がシャドウ雪子に向かい、一瞬だけど彼女の動きが止まった。
それを見ていた、陽介、千枝、コロマルの四人はすぐさま攻撃を加えた。

『どうしてっ………どうして私が消されるの!?私はただ、自由になりたいだけなの!!!
どこか遠くへ行ってしまいたい。ただ、そう願うだけ!!!雪子の中に入ったままじゃ、どこにも遠くへいけないの!!!』

悲痛な叫びがあたりに響きわたった。
その声に、みんなは顔をゆがめる。ここにいるみんなは、ずっとシャドウの叫びを聞いてきた。
シャドウが悪いわけじゃない。もう一人の自分の気持ちに気付けなかった自分自身が悪いのだ。
もしくは気付いていて、無視し続けたこと………それも悪い。

「ごめ…………ん、ね。」

ふいにか細い声がする。
声のした方向を見れば、和服姿の雪子がふらつきながらも立ち上がろうとしているところだった。
千枝が彼女の名前を呼んでから、すぐに雪子を支える。

「雪子…………」

「千枝…………ごめんね。シャドウの私も、本当にごめんね。」

涙を浮かべながら雪子は謝った。
彼女はシャドウ雪子の元へふらつきながらも歩いていく。
ぴくりとシャドウ雪子は身を引いたが、雪子は小さく笑顔を浮かべながらシャドウ雪子へと踏み出していく。
そうして二人の距離は縮まった。いつしかシャドウ雪子の頬には、雪子の温かい手が添えられていた。

『今更何なのよ………。なんで謝るのよ。どうして私を嫌いにならないの?私はあなたを苦しめたじゃない。
あなたの大切な友達に攻撃したじゃない。なのになんで……なんで謝るの!?』

「私だって………私だってあなたを苦しめた。気付いてたのに気付かないふりをしてた。
旅館をつぎたくない。ええ、そうね。それは私のホントの気持ち。私はいつもどこかに行っちゃいたいって考えてた。
でも世間体とか、自分に対する評価とか、そんなのばっかり気にしてて、いつもいい子でいなきゃいけないって、
そんなことばっかり考えてて、いつしか本音を言いたい自分を押し込めてた。
傷ついた自分を癒せるのは、やっぱり自分だって気付いたの。ごめんね……………雪子。」

雪子はもう片方の手もシャドウ雪子の頬へと添える。
シャドウ雪子は最初は怒りの表情を浮かべていたが、だんだんはにかんだ顔をして一言だけ雪子につげた。

『雪子の―――――馬鹿。』

それを聞き、雪子は微笑む。彼女の前にいたシャドウ雪子はまばゆい光に包まれ、そして姿を変える。
もう一人の自分と分かり合えた時、裏の自分は表の自分を支える力となる。
表の自分と裏の自分。それはいつも表裏一体で、その二つを含めて全部が自分。雪子はちゃんと、それに気付けた。

コノハナサクヤ。

それが彼女の新しい力。ペルソナという…………。
ガクンと膝を折って雪子が崩れ落ちる。驚いた千枝がすぐさま彼女の元へと走った。
雪子のそばにきて、心配そうに声をかければ、疲れた顔をしながらも雪子は笑った。

「ごめんね千枝。私、とっても汚い人間だよね………。」

それを聞いて千枝が首を振る。も陽介も、も一緒に首を振った。
汚い部分がない人間なんて、どこにもいない。
だって陽介だって、千枝だって、そしてだって、みんな雪子みたいな一面を持っているのだ。

「雪子、私だって酷い人間なんだよ。だから………私もごめんね。」

「千枝………。」

二人は分かり合ったようにお互いを抱きしめる。
安心したように陽介は表情をゆるめ、は静かに笑ってを見た。彼女もにっこりと笑う。
コロマルが一件落着だというふうに、「ワン!!!」と高く吼えた。
それを聞いたとたん彼女は安心し、ゆるゆると気を失って千枝にもたれかかる。

「雪子っ!!!」

千枝は慌てるが、彼女にもたれかかって目をつぶる少女は、とても幸せそうな顔をしていた。










「それじゃ、俺、里中と一緒に天城を家に送っていくわ。」

君、さん、今日は雪子のことでありがとう。また明日、学校でね。」

雪子をおぶった陽介が、に背を向けて歩いていく。千枝もそれに続いた。
は片手を上げて「ああ。また明日」と言い、も小さく手を振った。
三人はだんだん、大きな夕日の中へと消えていく。その姿を、二人はずっと見ていた。
「ううう………」とコロマルが声を上げだしたので、を促す。

、私たちも帰ろう?帰ってご飯の支度しなきゃ。ナナちゃんも待ってると思うし。」

「ああ、そうだな。」

そう言って、二人は歩き出す。商店街の道は誰もいなくて、シャッターを閉める音が響くだけ。
カツカツというコロマルの爪音だけが聞こえる。二人の間に会話はなかった。
で考え事をしていて、で物思いにふけている。
彼女はこの前届いた真田からのメールのことを考えていた。
力になるからと言ってくれた真田に、どう返事を出せばいいか分からず、結局はメールを返していない。

2年前、シャドウのことではだいぶ苦しんだ。でも、真田はその前から苦しんでいた。
天田乾の母親を、ペルソナの戦いで誤って殺してしまったこと。
その直接の原因であった荒垣を、2年前の戦いで失ってしまったこと。
けど、それを乗り越えて真田は強くなった。強くなって、再びに力を貸そうとしてくれている。
だけど………真田の力を借りるのは、きっと間違っている。
再びペルソナ使いとして選ばれたのは自身。戦いの舞台として新しく選ばれたのは八十稲羽。
今回新しく選ばれたペルソナ使いたちだっている。はちらりと横を見た。
横にはしっかり前を見つめるがいる。きっとこれは、私たちの戦い。
だから………は自分の中で結論を出す。

その横で、も考えていた。
今まで陽介、千枝、雪子のシャドウを見てきた。
彼らはもう一人の自分をペルソナへと変えてその能力を得た。
では自分は………?どうして自分はそんなことがなかったのだろう。なぜいきなりペルソナに目覚めたのだろう?
陽介は言った。にはきっと、押さえ込んでいる自分がいないのだと。心が綺麗なのだと。
それは違う。自分にだって、隠したいことぐらいある。言えない本音だってある。
ペルソナを次々と付け替えることのできるこの能力。特殊な力。みんなとの違いは何だ?
その答えを知るための手がかりは、なのだろうか?彼は口を開いた。

。聞きたいことがある。どうして俺の能力は、陽介たちとは少し違うんだ?
どうしては、俺と同じ能力を持っているんだ?」

不意にそう聞かれて、は立ち止まった。
も立ち止まり、じっとを見る。コロマルが小さく唸ったが、は何も気にしない。
コロマルがそのままに擦り寄った。彼女はフッと笑ってしゃがみこむ。
コロマルの頭をなでながら、の疑問に答えた。

「それはきっと、が特別な存在だから。あなたなら、答えにたどり着けると私は信じてる。
私がと同じ能力を持っているのは…………私だけがたどり着く、答えが存在していたから。
その答えは―――――――とっても綺麗だったよ。」

は再び立ち上がって、柔らかな微笑みを浮かべながらに言う。
その光景が彼の中に焼きついて、家に帰っても忘れることができなかった………。









From
Sub お心づかい、ありがとうございます。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
真田先輩、お元気ですか?私もコロマルも元気で過ごしています。
今回の稲羽市の事件、先輩の睨んだとおり、ペルソナとシャドウに関係しています。
でも………大丈夫です。あの人が私に力を残してくれました。
それに、私一人じゃありません。素敵な仲間ができました。
今回選ばれたのは私たちです。だから………これは私たちの戦いなんです。
ごめんなさい。今はこんなことしか言えない。
だけど、真田先輩の力が必要になったら私、ちゃんと先輩に言いますから。





パタンと真田は携帯を閉めた。静かに笑って、小さく呟く。

「変わったな、…………。お前は前よりも強くなったよ。俺以上にな。」








#12 わたしとわたし