「、さっきはぼうっとしてたみたいだけど、大丈夫なのか?」 ジュネスに行く途中、陽介が心配そうに彼女の様子を伺う。 は先ほどの少年がひっかかりつつも、笑顔で「大丈夫」だと答えた。 あの、不思議な感覚は何だったのだろうと、瞳を前に向けてから思う。 圧迫感のある感覚だった。ペルソナの感覚だろうか…………? (気にしても仕方ないか………。) 横にいる陽介に目を向けると、彼は楽しそうに今日あった出来事について話していた。 テストのことなどすっかり忘れているようだったので、あえてはそれを口には出さなかった。 陽介の話が終わり、静かな時間が流れる。 その時ポツリと、陽介が一言呟いた。 「俺さ、たまにだけど学校とかジュネスに小西先輩がいるような感覚に陥るんだ。」 「えっ?」 寂しそうな声だった。 寂しさをこらえているけれど、こらえきれていないような………。 ピタリと陽介が歩みを止めたので、も彼に合わせた。 陽介は乾いた笑いを上げ、「もういないって、分かってるのにな。」と言った。 は一度瞳を伏せてから、陽介の前に立つ。そのまま、静かに口を開いた。 「陽介の気持ち、少しだけ分かるよ。」 「………?」 不思議そうな声を上げる陽介を見て、言葉を続ける。 「私もね、時々両親が生きてるように思える時があるの。 家に帰ったらお母さんたちがいるって………たまに思っちゃうんだ。」 「あ………悪い!!!お前、その……」 ばつが悪そうに陽介はから視線を外す。彼はから聞いていた。には両親がいないことを………。 「いいの。」とは言い、ふと、彼女は遠い目をした。 両親だけじゃない。学校に行ったらあの人がいると、そう思ってしまうこともある。 本当なら、先輩である彼と一緒に学校へ通っていた。 でもその夢は2年前に崩れ去った。 10年前の事故のせいで、多くのものを失った。最初は嘆いたけれど、今ではちゃんと分かっている。 多くのものを失ったぶん、多くのものも手に入れたことを………。 「なぁ。1つ聞いてもいいか?」 「なに?」 目の前に立つ陽介が、真剣にを見る。真剣な眼差しで彼は尋ねた。 「は……過去に戻りたいって思うか?」 その質問に、彼女は目を伏せた。言葉のない間、行き交う車の音だけが二人を包む。 彼女は2年前の3月31日を思い出していた。 永遠の、終わらない3月31日。 仲間と鍵を奪い合い、そして彼女たちが真実を知った日。 あの時ゆかりは、過去に戻りたいと言った。彼に会いたい一心で。 真田は過去には帰らないと言った。彼が守った未来を生き抜くために。 その時は………。 「過去には………戻りたいと思わない。 私ね、昔決めたんだ。未来を守ってくれた人のために、今を一生懸命生き抜くって。 それが約束。私の一方的な約束なんだけどね。」 そう告げて、彼女ははにかんだ。しっかり意見を言ったを見て、陽介が呟く。 「。お前、強いんだな。」 彼の言葉に、は背を向けて答える。 「陽介もきっと、強くなれるよ。」 「………ありがとな。」 向けられた背中に、陽介は小さく感謝の言葉を口にするのだった。 その次の日、ニュースの特集として、暴走族についての番組が放送された。 新聞を読んでいた堂島は一人の少年の声を聞き、ばさりと新聞を折りたたむ。 「この声…………」 そう呟いてから、目を凝らすように画面を見る。 もちろん少年の顔にはモザイクがかかっているのだが、堂島にはすぐに分かってしまったようだった。 「お父さんの知り合い?」 「あ、いや………」 菜々子の問いかけに曖昧に答え、堂島は唸るように言う。 「巽完二。ケンカが強くて、このあたりの族をしめてた少年。 暴走族が夜うるさくて、母親が寝れないからっていう理由で族を潰したという話を聞いたな。 けどあいつ、どっかの高校受かって通ってるんじゃなかったか?」 テレビでは完二のわめき声が聞こえてくる。 「コップ、もういい?」 堂島が一人唸っている最中、エプロンをつけたが堂島の横に立ち、 机の上に置かれたコップを指差していた。 彼は慌ててコップを手に取りへと渡す。その時、ちらりとはテレビを見た。 「なぁーに、これ?暴走族の特集………?あれ?確か彼、どっかで………」 コップを持ったまま顔をしかめる彼女に、堂島がため息混じりで言った。 「ん?ああ。巽屋の一人息子だ。」 「………えっ?完二、くん?うそ…………」 は驚いてもっとよくテレビを見た。 不思議そうな顔をするの隣に座り、じっと画面を見る。 すぐに声が上がった。 「あっ!!!なんとなくだけど、完二君っぽいね。 でも完二君、すっかり変わっちゃったんだね。昔はもっと、気弱な子だったのに。」 悲しそうに呟いてから、台所へと戻る彼女。 は席をたち、のところへと向かった。 「、知り合いなのか?」 「え?うーん、知り合いというか………昔一緒に遊んでたの。 小さいころだけどね。私がポートアイランドのほうに行ってからは全然会ってないんだけど。 こっちに帰ってくるのは長期休暇のときだけだから。 こんなに小さい街なのに会うことがないなんて、不思議なくらいと思ってたけど……… あんなに変わっちゃったら気付かないね。」 コップを洗いながら話す。泡が水で洗い流されていく。 は完二との思い出も一緒に流れていってしまうように思えた。 それと同時に、今日の夕方に感じた、あの不思議な感覚が蘇る。 いや、不思議というよりも奇妙な感覚。 そのことを考えていると、突然ぺたりと体に張り付くような何かの感覚がして、 はコップを洗う手を止めた。 (やだ………何この変な感じ。) ぞくりと寒気がする。動くことができなかった。 「………?」 が心配そうに彼女を見つめる。は何も言わない。 そしてまた、キィーンと耳をつく音がする。はぎゅっと目をつぶり、耳を塞いだ。 その時………… ガシャンッッッ!!! 何かが壊れる大きな音が部屋に響く。 びくりとその場にいた4人は体をびくつかせ、音のしたほうを見た。 玄関においてあった花瓶が、下に落ちて割れていた。 「ど………どうしたの?」 菜々子が机に手をついて、乗り出して見ている。 堂島も驚いた顔をしていたがすぐに立ち上がり、花瓶の破片を拾った。 「また派手にいったなぁ。すきま風で落ちたのか? この家も古くなったもんだな。おい、ちりとりとほうき持ってきてくれないか? あ、菜々子。危ないからお前は来るなよ?」 菜々子に念を押して彼は破片を片付け始める。 「………?」 が呆然とする彼女の肩に手を置くと、はハッとして慌ててほうきとちりとりを取りに行った。 「………どうしたんだ?」 堂島に頼まれたものを取りに行ったを見送ってから、も堂島を手伝う。 しばらくして、ポツリと堂島が呟いた。 「おかしいな。」 その言葉に顔を上げると、靴箱のそばで腕組みをする堂島の姿。 「何が?」と尋ねれば、彼は渋い顔をして靴箱の上を示してから言う。 「花瓶、落ちて割れたわけじゃなくてな。 どうもこの上で割れて、破片が下に落ちたみたいだ。どうなってんだ?」 も立ち上がり、堂島の横で靴箱の上を見る。 砕けた花瓶の破片が、たくさん転がっていた。 それはマヨナカテレビが映る前の晩の出来事だった。 学校で暴走族の話が持ちきりとなり、 昨夜テレビに出た人物が巽屋の巽完二に似てるという噂も広がった。 確かに堂島やも、あの人物が巽完二だと言っている。 死んだ山野真由美や小西早紀、誘拐された雪子に関するのテレビ放送は、 最初からなかったみたいに話が上がらなくなった。 「学校でも盛り上がってるよな、暴走族に関する番組。 『うらぁ!!!こっちみてんじゃねーよっ!!!』っておっかねぇーの!!!」 特捜本部………ジュネスのフードコートで、陽介は完二らしき人物の真似をした。 そのそばで、がふと視線を下に落とす。は昨日の彼女の悲しそうな顔を思い出した。 けれどもみんなはそんなには気付かず話を進めていく。 「あ、見た見た!!!なんつーか、すごい迫力だったよね。」 「ああ。マジであんなんがこの街にいるかと思うと、安心して寝てらんねーよ。 それよかさ、天気崩れてきてんじゃん。週末は雨ばっかって天気予報で言ってたぞ。」 「それじゃもしかしたら…………」 雪子が考え込むような仕草を見せる。 言葉にしなくてもみんな分かっている。雨が続く………つまり、マヨナカテレビが映るということ。 今度こそ、テレビに入れられる前に救わなければとみんな意気込んだ。 「ねえみんな、もしマヨナカテレビに誰かが映ったら、絶対助けようね。」 雪子が静かにそう言うと、みんなが一斉に頷く。 その中で、はぎゅっと自分の右腕をきつく握っていた。 (テレビに映った人を助けたいとは思う。だけど、このままあの世界に干渉してもいいのかな。 私達ペルソナ使いが干渉することで、二つの世界のバランスが崩れてるように思えるのは気のせいなのかな。 シャドウ………満月の日が来て、またあの時みたいに大型シャドウが現れたら………) 昔のメンバーで今ペルソナを使うことが出来るのは3人。 とコロマル、そして天田乾。 彼女は右腕を握る手に、さらに力をこめた。 もしも大型シャドウが現れて、私達が3人が勝てなかったら………? 戻 |