「次のニュースです。 今朝、港区のポートアイランドで、道路が破損しているのを住民が発見し警察に通報しました。 道路には何かをたたきつけたようなヒビが入り、引きずってできた跡も見られるということでした。 警察はこの通報を受け、付近の住民に話を聞くなどして捜査をする方針を固めました。」 そのニュースを見たとたん、は拭いていたプラスチックの皿を落とした。 「おい、今朝のニュース見たかよ?ポートアイランドの道路にヒビだってよー。」 「あ、見た見た!!!どんなイタズラしたらヒビなんか入るわけ? 結構ひどかったっぽいし、どんだけ力かけたんだよって話だよねぇ〜。」 「やったの、実は千枝なんじゃないの?」 「んなわけないでしょーが雪子っ!!!」 「ぷっ………くくく……あは、あははははっ!!!千枝ってば何本気にしてるのよー!!!」 陽介・千枝・雪子の会話が飛び交う中、はじっと頬づえをついて斜め後ろの席に座るを見ていた。 さっきからずっと携帯を握り締めて下を向いている。 は彼らの会話には一切入ろうとはしなかった。それより、会話を聞いているのかどうかも怪しい。 声をかけようにも、なんだか声をかけづらかった。 彼女がいつもより真剣な表情を見せていたから。 今朝、は陽介たちが話しているニュースを聞いて皿を落とした。 瞳を大きく開いてテレビを見ていたを思い出す。今の表情は、それと何か関係があるのだろうか? チャイムが鳴りそうな頃、ガタンとは席を立った。 不思議に思った陽介が、彼女に声をかける。 「おい、。もう授業始まんぞ?」 「うん………分かってる。ちょっと私、気分が悪いから保健室行ってくるね。」 「え……大丈夫なの?そういえば、ちょっと顔が青いような……」 「私、付き添おうか?」 陽介の言葉に続いて、千枝と雪子も心配そうにを見た。 けれども彼女はいつもどおり笑って「大丈夫。」と言う。 大丈夫っていう顔じゃないくせに?はすぐにそう思った。 席を立ったは、携帯を握り締めたまま教室を出て行く。 それを心配そうな目つきをした四人で見送った。そのあとすぐ、チャイムがなる。 教室にモロキンが入ってきて、授業が始まった。 保健室に行くと言ったは、保健室には向かわず屋上へと出る。 降り続いた雨はどこかへと消えていたが、空はわずかに曇っていた。 壁にもたれかかって、握り締めている携帯に視線を落とす。 あのニュースを見て、ポートアイランドで何が起こったのかすぐに分かった。 道路のヒビ、見たことがある。あれは、二年前と全く同じヒビだった。 現実世界に出た巨大シャドウと戦った時、あの人が放ったジオダインをシャドウがかわした時にできたヒビ。 もしかしたら……… は意を決したようにアドレス帳を開いて電話をかけた。 家を出る前、真田の携帯に何度かかけたのだが、うまくつながらなかった。 今度は違う人にかけてみる。その人が電話に出る確率はかなり低い。すごく忙しい人だ。 何度も何度も呼び出し音が鳴る。 (やっぱり………出ないよね。) 半ば諦めかけたとき、コール音がやんでキリっとした声が耳に届いた。 『………か?どうした?』 「美鶴先輩っっっ!!!」 少し驚いて声が大きくなってしまう。電話の相手は苦笑した。 『そんなに大きな声で名前を呼ばなくても聞こえているよ。』 「す、すみません………。まさか電話に出てくれると思わなくて、少し驚いたんです。」 素直に謝る。美鶴は笑った。 『私もこんな時間にから電話が来るとは思わなかった。今は授業中じゃないのか? さては………さぼっているな。感心しないな………と言いたいところだが、今はそれどころじゃないんだろ? 聞きたいことがあって電話をしてきた……というところか?』 何かを察しているかのように美鶴が言う。 彼女はがどうして電話をしてきたか分かっている。ごくりとはつばを飲んだ。 「あの………」という消え入りそうな声に続いて、単刀直入に尋ねた。 「朝、ニュースで見ました。ポートアイランドの道路が破損してたっていうニュース。 あれは………シャドウが関係してるんですか?二年前のあの時みたいに………。 さっき真田先輩の携帯に電話したんですけど、先輩電話に出なくて……。 もしかしたらって心配になって、美鶴先輩に電話したんです。」 一通り言い終えると、電話の向こう側で美鶴が小さくため息をつく。 そのため息を理解しかねていると、すぐに美鶴は言葉を返した。 『明彦ならここに………病院にいる。天田も一緒にな。2人とも大きな傷は負っていない。 それに桐条グループの息のかかった病院だ。何も心配する必要はないさ。』 「病、院…………?」 『ああ。にはちゃんと話しておかなきゃいけないな。 昨晩の出来事だった。ポートアイランドに巨大シャドウが出たんだ。 私と天田、明彦の三人はこのシャドウをどうにかするため必死で追いかけた。 が知っている通り、私と明彦のペルソナ能力は消失している。 主に天田が戦っていたんだが、天田が不意をつかれて………。 その時だった。シャドウへと拳をぶつけた明彦の背後に………』 カエサルが現れた。 「えっ…………?」 は息を呑む。 桐条グループによるペルソナの研究で、成人に近くなるとペルソナ能力が消失することが分かった。 成人をこえた明彦、美鶴はもちろん、その年齢に達そうとしているゆかり、風花、順平にもペルソナ能力はすでにない。 アイギスは機械だが、命の答えにたどり着いた瞬間、ペルソナ能力を失ったのだ。 かつてはもそうだった。アイギスやかつてリーダーだった彼と同じように命の答えにたどり着いた。 ペルソナ能力は消え、平和な日々が戻るはずだった。 『明彦にペルソナ能力が戻った理由は分からない。 そして………ペルソナ能力が消失していたも、突然ペルソナに目覚めた。 明彦から聞いたよ。稲羽市の事件はペルソナが関係している………と。 ならばそちらにもペルソナ使いがいるっていうことか。 とにかく、もうしばらく様子を見てみることにしようと思っている。 明彦にペルソナが戻ったのも、偶然なのかどうか分からないしな。』 ふっと電話口で美鶴が笑った気がする。 「そうですか………」という言葉を吐き出して、は遠くの山を見つめた。 電話口の美鶴が「それよりも」と言葉を続けたので、は「はい?」と声を出す。 『授業にはちゃんと出なきゃダメだぞ。高校の授業はそれなりに大切だからな。 お前の将来にも左右してくる。ま、今回は見逃してやろう。』 「ふふっ、美鶴先輩ってちっとも変わりませんね。 はい、これからはサボらないように気をつけます。」 が笑うと相手も笑った。2人で笑いあったあと、先に美鶴が別れを切り出した。 また何かあったら連絡を入れると言い、美鶴から通話を切った。 も通話が切れた携帯を耳から放し、スカートを翻す。 授業はまだ始まったばかり。モロキンに何か言われるかもしれないが、美鶴と約束した。 授業をさぼらないって。それにが体調不良だと思っている陽介たちも、今頃心配してるかもしれない。 嘘はよくないけど、訂正するのもややこしいし、このまま通すことにしよう。 はそう思って、屋上の階段を駆け下りた。 静かな空間に、彼女の足音だけが響いた。 その日の放課後、完二を調査するたちは、小柄な少年と話をする完二を遠くから見ていた。 何の話をしているかどうかは分からないが、明日の放課後、2人は再び会う約束をしているようだった。 はみんなの顔をぐるっと見ながら頷く。みんなも力強く頷いた。 火曜日の放課後。 昨日予定していた通り、再び巽完二について調べるべく、自称特別捜査隊のメンバーは校門に集まっていた。 柱の影に隠れつつ校門の入り口を見ていると、完二がぶつくさ言いながら出て行くのが見える。 これからあの小柄な少年と会うはずだ。メンバーは顔を見合わせて頷いた。 「で、今日も完二を調べるわけだけど、あいつのあとをつけていくのは誰にする?」 見失わないように陽介が完二の背中を見ながら言った。 「誰もいなければ、俺が行こうと思うんだけど……」と呟いたあと、ちらりとを見る。 どうせならに一緒に来てほしいな……という視線を向けたが、すぐに別の声が上がった。 「はいはーい!!!アタシも一緒に行く!!!探偵みたいで楽しそうだし!!!」 にこにこと笑う千枝。手を上げたのは千枝だったのだ。 やる気満々の彼女に苦笑を向けながら陽介は不安に思う。 そしてすぐに千枝に抗議した。 「里中が?なーんかすぐにバレそうな気がするんだけど……。 こういうのはやっぱり、ちょっと落ち着いたやつがいいと思うんだよな。」 そういいながら、チラリとに視線を向けるが、彼女は陽介を見ていなかった。 の視線の先にあったのはだった。タイミング悪く、ちょうどがに話しかけたところで………。 「、俺と一緒に巽屋を張ってくれないか?」 「え、うん、いいけど……。じゃあ雪ちゃんも一緒にどう? 雪ちゃんは完二君のお母さんと知り合いだし、何かあった時に心強いし………。 完二君のことは、陽介と千枝ちゃんに任せましょ。 陽介と千枝ちゃんのコンビだったら何とかなりそうだしね。」 にっこりと陽介・千枝に笑顔を向ける。陽介は少しだけ顔を引きつらせた。同時にチクリと胸が痛む。 出遅れた……そう後悔しながらの顔をそっと見ると、彼は穏やかな表情でを見ていた。 の言葉に雪子が頷き、すぐに話がまとまる。 「じゃあ頼んだ、陽介に里中。何かあったら携帯に連絡してくれ。」 はそういい残して、と雪子と一緒に巽屋へ向かう。 千枝が元気のいい返事をして、彼らの背中を見つめる陽介をひっぱる。 「ほら、行くよ花村っ!!!ぼやぼやしてるとターゲットに逃げられちゃうじゃん!!!」 「ん?あ、ああ………。」 2人も急いで角を曲がった完二を追いかけるのだった。 一方、巽屋へとたどり着いた・・雪子の三人は、じっと巽屋を見ている。 いつもと変わらない。時々お客が来ては、しばらくして去っていく。 その中に、怪しい人物など一人もいなかった。 陽介と千枝は大丈夫だろうか……そんなことを2人が考えている時、ふと雪子の声がする。 「ねえ、私のときみたいに、やっぱり犯人来るのかな………。」 ぼそりと呟かれた言葉に、とが雪子を見る。 地面を見つめてそう言う彼女に、が強く頷いた。 「俺は来ると思う。マヨナカテレビに完二が映ったのは確かだ。 今度こそテレビに入れられる前に俺たちが助けてみせる。」 の言葉にも大きく頷く。雪子の伏せられた視線が2人へと戻ってくる。 そのままにっこり笑って、「そうだね。今度こそ犯人を捕まえよう。」ときっぱり言った。 そうしてしばらく3人で話をし、が雪子に聞き忘れていた連絡先を聞いたとき、ヘトヘトになった陽介と千枝が姿を現す。 2人はパンっと手を合わせたあと、3人にぺこんと頭を下げた。 「すまないでござる。巽完二にバレたでござる………。」 「この通りだ。許してくれ………。」 「………なんでバレたんだ?」 痛いところを聞いてくるに、陽介と千枝は小さくなった。 「や……ちょっと完二を追いかけつつ花村と騒いじゃって………」 「お、俺は悪くないからな!!!里中が興奮してギャーギャー騒ぐから………」 「何それ!?アタシだけの責任って言いたいの!?花村だって、デカイ声出してたじゃん!!!」 「俺よりもお前のほうがデカイ声だったっつーのっ!!!」 いがみ合う2人の様子を見て、は腕を組んでため息をつく。 なるほど、こういうことかと思い、口論を続ける陽介と千枝にはっきりと言った。 「もういい、分かった。こういうことか………。 仕方ない。こうなったら直接完二に聞くしか………」 「あ、完二君!!!」 の声と雪子の声がかぶる。雪子が指をさす方向を見ると、ぶらぶらと完二が巽屋に向かって歩く。 意を決しては完二へと走り、声をかけた。 「完二、お前に聞きたいことがある。」 「お前ら昨日の………。」 警戒するような目でたちを見る完二。 に引き続き、陽介が完二に尋ねる。最近身の回りでおかしなことはないかと。 完二は敵意むき出しの表情で叫ぶ。別に何もない………と。 そのままくるっと背を向けて巽屋へと入っていった。 「やっぱ何もねぇーか………。」 「ホントに真夜中テレビに映ったのって、完二君だったのかな……。 何か自信なくなってきちゃった。」 「でもあれは、やっぱり完二君だと思うよ。」 「何かもう少し本人だと断定できる情報があれば………」 以外のメンバーが、口々に言葉を発する。そんな中で彼女だけがじっと巽屋を見ていた。 (なんだろう、この感じ………。どこかで………) そう思った直後、キィーンという耳鳴りがした。 しかしそれはすぐにやみ、ハッとしたは周りを見回す。 たちは何も感じなかったのか、みんなで完二についての話を続けている。 すぐに消えてしまったが、ペルソナの共鳴に似ているそれ。 まさか、完二がペルソナを………? そう考えた直後、の「今日は解散しよう」という言葉を聞く。 は後ろ髪を引かれながらも他のメンバーと共に巽屋をあとにした。 |