×

[PR]この広告は3ヶ月以上更新がないため表示されています。
ホームページを更新後24時間以内に表示されなくなります。













4月も終わりかけようとしていた。
大学の広い講義室に、ぞくぞくと人が集まってくる。
もうそろそろ、授業が始まる時間帯。
机とイスがくっついたいつもの席に、真田は荷物を置いて座る。
真田の友人たちはみんな、この授業をとっていない。

『心理学ねぇ〜。俺たちは心理学よりもバイトとかのほうが大切なんだよ。悪いな。』

みんなそう言って、片手をあげて別れを告げていった。
確かに心理学なんて、真田の在籍している学部では必要のない単位だ。
周りにいるのは全て、そういう授業の単位を必須としている者たちばかり。

「キミ、ボクシング部の真田君、でしょ?」

「…………?」

不意に真田の近くで影が落ちた。見上げると抽象的な顔が笑っている。
女か?と真田は思ったが、どうやら男らしい。少しクセの強い髪の毛が揺れた。

「ね、隣、座ってもいいかな。空いてるみたいだし。」

「ああ、座ってもいいが………どうして俺の名前を知っている?」

「どうしてって……有名だよ、キミ。ボクシング部の期待のエース。
それにキミはかっこいいから、よく女の子たちが騒いでるの聞くんだよ。
あ、よろしくね。僕は伊波座って言うんだ。キミとは違う学部に籍を置いてる。」

伊波座と名乗った青年は、にっこり笑って真田に握手を求めてきた。
ためらう風でもなく真田は手を差し出した。
数秒間、お互いの手がしっかりと握られて離される。

「けど、キミの学部って確か、心理学必須科目じゃないよね?」

鞄の中から教科書やノートを取り出す伊波座が、軽くぼやいた。
それを聞いた真田は、遠くを見つめて答える。

「少し、興味が………あってな。」

答えると、伊波座の手が止まった。
どこか不思議そうな目をして真田を見ている。
真田も伊波座に視線を合わせるが、どうにも居心地が悪かった。
二つの双眸を見ているだけで、どこか違和感を感じた。
この感覚………そう、前に望月綾時と会ったときに感じた雰囲気。
何か、恐ろしいものを呼んでしまうような………。

「ふーん。そうなんだ。興味のあることを追求していくって面白いよね。
ねえ、"Persona"って言葉知ってる?元はラテン語で"仮面"を表す言葉。
英語の"Person"は、そこからきているらしいよ。
人は生きていく中でさまざまな立場の仮面をかぶっているって聞いたことがある。
キミは今、どんなペルソナをかぶっているんだろうね。
大学生としてのペルソナ?それとも、もっと別の……………」



ペ  ル  ソ  ナ  ?



ぞくりと背筋が寒くなる。笑ったままの伊波座は不意に前を向いた。
心理学を教える教授がもう教室へと来ていた。
カッカッと黒板が白や黄色のチョークで埋まっていく。
黒板の端に書かれたPersonaの文字。
人間が生きていく上でかぶる仮面。そして、自分の中にいるもう一人のカエサル。
今はもう、消えてしまったペルソナ能力。教授の声が、どこか遠くで響いてるようだった。

授業が終わり、真田の隣に座っていた伊波座が鞄を持って立ち上がる。
正直、あまり好きではない。悪いやつではないだろう。だが、雰囲気が真田と合わないのだ。
自分を見つめる真田に気付いた伊波座はやんわり笑った。
スポーツバッグを肩から下げて、艶のある口を開く。

「隣に座らせてくれて有難う、真田君。僕はもう帰るよ。
キミと知り合いになれて嬉しかった。また大学で見かけたときは、声をかけてね。
あ、最後に一言。キミは、いい仮面を持っているみたいだね。
きっとキミのその仮面は、大事なところで役に立つと思うな。
演劇は仮面をつけた人物が多いほど面白い。ね、キミの仮面が活躍することを、僕は期待しているよ。
それじゃ、また。」

真田はそこで、覚醒を迎える。

(ここは……病院か?それにしても、この前のことを再び夢で見るなんて、変な話だな。)

ぼんやり真田は、白い天井を見ていた。
伊波座。4月の最後、心理学の授業で会ったきり、彼とは会っていない。
不思議な人物だった。まるでペルソナのことを、よく知っているような……。
ペルソナ。ラテン語で、『仮面』を意味する言葉………。










ジュネスの家電売り場に行くと、もうみんなが集合していた。
夜遅いせいか、家電売り場には誰もいない。
最初にコロマルがテレビの中に飛び込んだ。次にが続こうとする。
しかしそれを陽介が止めた。

「待てよ!!!一体どうしたんだよ。
突然クマの世界が大変なことになってるって……」

「行けば分かるわ!!!」

そう言葉を残して、はテレビの中に消えていった。次にが続く。
陽介と千枝、雪子の三人は顔を見合わせたが、そのままテレビの中へ飛び込んだ。
いつもの感覚を体で感じ、慣れたように着地する。
そこで全員、息を呑んだ。遠くで轟音と、低い声で何かが叫んでいる。
泣きそうな顔のクマが、すぐに飛んできた。

「センセイっ、みんな、待ってたクマよっ!!!
へ、変な巨大シャドウが雪ちゃんのお城に現れて、クマの世界を壊してるクマっ!!!」

「変な巨大シャドウって……突然現れたのかよ、クマっ!!!」

「クマにだって分からないクマ!!!とにかく、何とかしてほしいクマよっ!!!
このままあのシャドウが暴れてたら、確実にクマの世界が壊れちゃうクマっ!!!
そしたら完二だって………っ!!!」

「とにかく、雪子の城へ行こうっ!!!」

リーダーであるの言葉を合図に、残りのメンバーは走り出した。

「あ、待ってクマ!!!クマを置いてかないでほしいクマよぉぉぉぉぉーっ!!!」

慌ててクマがみんなのあとを追う。
雪子の城に近づくにつれ、音がだんだん大きくなってきた。
身震いしてしまうほどのシャドウの低い唸り声。
は自分のペルソナが危険信号を放っているような感覚に陥る。
彼だけじゃない。その場にいるみんなも、その感覚を味わっていた。

「やだ、何か………怖い。」

不意に千枝が呟く。彼女の言葉に雪子も頷いた。
陽介も言葉を口にする。「何なんだよこの感覚……」と一言。
そして次第に見えてくる巨大シャドウ。
敵意むき出しで、そばのシャドウたちを食い散らしていた。
すぐに雪子が口を押さえる。雪子の城は、シャドウの残骸が散らばっていた。
と陽介も息を呑んだ。自分達よりはるかに大きいシャドウ。

「なんか……やばくね?」

「何よアイツ。すごい凶暴じゃん。」

暴れるシャドウを見て、陽介と千枝が武器を握りなおす。
雪子は耐えられなくなり、シャドウがから顔を背けた。
その横を、とコロマルが険しい表情をして通り過ぎていく。

「な、何してんだよにコロマルっ!!!そんな前まで行くと………!!!」

慌てて陽介が叫んだが、少し遅かった。
暴れていたシャドウが、とコロマルに気付く。
ウウウとコロマルが唸り、低い姿勢をとった。その横でが呟く。

「やっぱり………。けどあなた、二年前とは違うシャドウね。
同じ姿を模っているから、もしかしてと思ったけど、予想が外れてくれてよかったわ。
そう、彼の………ニュクスの力はあるはずがない。
だってニュクスは、宇宙の片隅で眠っているはずだから。」

シャドウはじっと、を見ている。
赤い仮面をかぶって、白と黒の髪の毛をかたどったものをひらひらと漂わせている。
みんなの背後で、クマが巨大シャドウを解析した。

「女教皇………プリーステス?女教皇って、何クマ?」

そう呟いた瞬間、クマの声にかぶってシャドウが大きく唸り声を上げた。
ニヤリとが笑い、コロマルが一声鳴いた。

「何の因果かは分からないけど、あなたはまた、彼のオルフェウスに倒される。
ねえ、召喚器がなくたって、ペルソナは召喚できるのよ。覚悟っ、プリーステスっ!!!」

が大きく声をあげて、ペルソナの名前を叫んだ。
竪琴を持ったペルソナ……オルフェウスが彼女の目の前に現れる。
これに呼応するかのように、コロマルも地獄の番犬、ケルベロスを呼ぶ。
二つのペルソナによって、巨大シャドウ・プリーステスは炎に包まれた。










「明彦、目が覚めたのか………。」

ガラガラと扉が開き、赤毛の女性が入ってくる。
見慣れた顔。そしてその後ろにもまた、明彦がよく知る人物がいた。

「美鶴………。それにアイギスまで………。」

「お久しぶりです、真田さん。天田さんは真田さんよりも早く目覚め、今検査中です。」

2人が真田のベッド脇に座る。しばらく沈黙が続いた。
最初に口を開いたのは美鶴だった。

「怪我が軽そうでよかった。全く、明彦は何回私を心配させれば気が済むんだ。
二年もたったのに、全く変わってない。」

「お前だって、その正義感に満ち溢れたところ、どうにかならないのか?
桐条グループの頭である仕事をほっぽり出して、わざわざ帰国してくる奴があるか?
アイギスも。自分の上司を引きとめろよ………。」

「引き止めようと思いましたが、やめたんです。
美鶴さんは頑固だから、私の言葉なんて絶対きかないって、すでに知ってますから。」

アイギスは苦笑した。機械なのに人間らしい表情。
二年でアイギスは、ますます人間に近づいたように見えた。
そこに、検査を終えた天田が部屋に戻ってきた。
二年前の面影を残し、少し成長している。顔つきも少し大人に近づき、身長も伸びた。
真田や美鶴、アイギスに気付き、天田ははにかんだ。

「皆さん………。それに真田さん、気付かれたんですね。よかった。」

天田も真田のベッドに腰をかける。
「揃いましたね……」とアイギスが言葉を口にして、話は早速、本題に入った。

「まさか明彦がペルソナに目覚めるとは、予想もしていなかった。
桐条グループの研究では、ペルソナ能力は成人までには失われるという結果が出ている。
現に、私にももう、ペルソナ能力は失われた。」

「私も、ワイルドの力を彼から受け継いで、二年前の4月1日を迎えた瞬間、ペルソナ能力は消失しました。
それは彼女と……さんと同じです。」

アイギスが瞳を伏せる。そこに天田の声が重なった。

「けどさん、真田さんの話では再びペルソナ能力に目覚めたそうですね。
何でなんだろう?美鶴さんにも聞いたけど、稲羽市……でしたっけ?そこでまた、シャドウと戦ってるって。
しかも、さんのほかにペルソナ使いがいるんですよね?」

そこで真田が口を開く。
ベッドの上で拳を握ったまま、彼は小さく言った。

「ああ。稲羽市で起きている事件は、ペルソナやシャドウが絡んでいるらしい。
はそう言っていた。だけど、詳しいことは聞いてない。
ただアイツは、『これは私たちの戦いだから』と、そう言っていた……。」

真田の言葉を聞いて、美鶴が腕を組む。そのまま少しだけ笑った。
「彼女らしい……」と美鶴が呟く。アイギスも苦笑したまま口を開いた。

「それって、つまり私たちに手は出さないようにっていう脅し、ですよね?」

「アイギスさん、そういうことはあまり、口には出さないほうがいいですよ?」

「え、そうですか……。私はやっぱり、まだまだ勉強不足のようですね。」

天田の言葉に、アイギスは笑った。つられて先輩2人も笑う。
しばらくみんなで笑ったと、「とにかく」と真田は他の3人を見て言った。

「稲羽市のほうはに任せる。
俺は自分がなぜ、ペルソナ能力を取り戻したのかについて調べることにするさ。
ま、ペルソナ能力が戻ったんだ。ポートアイランドのシャドウ討伐も、これで少しは楽になる。」

「あ、それは僕も手伝いますよ。
他にペルソナ能力がある人って言ったら、僕ぐらいですし。」

「それなら私は、明彦たちのバックアップをしよう。あの時の機材は健在だしな。
私とアイギスはしばらく日本にいることにした。遠慮なく、声をかけてくれ。」

「私もペルソナ能力はありませんが、シャドウ討伐には参加できます。
何しろ私は、シャドウ討伐のための戦闘機ですし………。」

アイギスはぐるりとメンバーの顔を見る。
一人ひとりが真剣な表情をしていた。その時アイギスは思う。
ここにいる全員が、ポートアイランドを、人を守りたいと思っているのだと。
それが彼への誓い。デスを宿して生き、デスと共に眠った彼への………。
そして、もまた、戦っている。再びペルソナ能力に目覚めて………。







一方、テレビの中。
見せ付けられたレベルの違いに、みんな言葉を失っていた。
とコロマルは一瞬にして巨大シャドウ・プリーステスを倒してしまった。
戦闘姿勢をといたコロマルが、ちょこんと座り、「クゥーン」と甘えるように鳴いた。

「ありがとう、コロマル。一緒に戦ってくれて。」

先ほどまでの真剣な表情は、からすでに消えていた。
柔らかく笑って、コロマルの頭を撫でている。

「す………すごいよっ!!!あんなのすぐに倒しちゃうなんて!!!」

興奮したように千枝が叫んだ。雪子と陽介も千枝と同じように声を上げている。
クマはぴょんぴょん飛び跳ねて、にお礼を言っていた。
そんな中、は拳を握っていた。
同じ力のはずなのだ。けれども今回、自分はの役に立てなかった。
まだ、力不足。それを今、痛感している。
イゴールは旅に出たばかりだと言っていた。けれどももう、は最後までたどり着いている。

………役に立てなくて、すまない。」

ワイワイ騒ぐ中で、低くもの悲しい声が響いた。
ぴたりと騒ぐ声がやみ、一斉にみんなが声のしたほうを見る。
が顔を下に伏せていた。その様子に、陽介や千枝、雪子もハッと気付いて下を向いた。

「そうだな。の言うとおり、俺たちは今回、の役に立てなかった。」

「アタシね、アイツを見て、怖いって思ってた。戦いたくないって。
ペルソナ使い失格だよね。とコロマルはあんなすごいのと戦ってたのに、アタシは見てるだけで……。」

「私も、ごめんなさい。
回復ぐらいはしてあげられたはずなのに、体が動かなかったし、直視さえできなかった。」

シュンとうなだれてしまったみんなに、とコロマルは慌てる。
「キューン」とコロマルが耳をペタンとつけ、は焦ったまま明るい声で言う。

「そ、そんな落ち込まなくても大丈夫だよっ!!!
それにあれは、私とコロマルの敵、だから………。」

「ワンッ!!!」

その言葉に、「そういえば……」とが口を開いた。
顔を上げ、じっとを見ている。
はジュネスに行く前、とコロマルが空を見上げていたことを思い出していた。
そして2人が、満月にひどく反応を示していたことを覚えている。

「どうしたの、?」

、ジュネスに行く前、満月とシャドウが関係あるって言ったな。
それは………どういう意味だ?」

「…………それは……昔、同じようなことが起きたから。」

先ほどの柔らかい表情は消えて、厳しい顔では答える。
その横に、コロマルが寄り添った。
の言葉に、陽介・千枝・雪子・クマの四人も眉をひそめる。

「同じようなことって………もしかして、がペルソナ能力に目覚めた時の話なのか?」

たまらず陽介も口を開いていた。こくんと頷く
もう、話してもいい時期だろうか?自分が体験した、恐ろしい出来事。
話してしまえば、彼らはペルソナやシャドウに対して、恐れを抱くだろうか?
いや、きっと大丈夫だ。

そう、

仲間を……信じよう。

事実を知っても、彼らはきっと、一緒に戦ってくれるはずだ。

は意を決して、口を開いた。











#21 女教皇― Priestess ―