「完二君!!!」と先に声を上げたのは、天城雪子。 黒い瘴気を立ち上らせたもう一人に立ち向かう、たくましい彼がいた。 本物の巽完二。握った拳を震わせて、もう一人の自分と対峙する。 ふいに完二が叫んだ。 「ざけんじゃねーっ!!!お前、誰なんだよ!?」 「何言ってんのさ。僕はもう一人の僕だよ? ずっとずっと君の中にいたけど、やっと外に出てこられた……。」 完二が対峙するもう一人の完二は、体をくねらせて答える。 の隣にいた陽介が、ボソッと呟く。「俺、ちょっと今回無理かも……」と。 千枝も眉をぴくつかせている。 完二だって、こんな気持ちの悪いものがもう一人の自分だと言われ、納得できない。 どうして自分の中にこんな気持ち悪い自分がいたというのか? 自分は男らしさを追及していたし、実際男らしいと思っていた。 喧嘩も強いし、適度に筋肉はある。怖いものなんてない。 だから認められなかった。今目の前にいる女みたいな人物が、自分だと言われて。 「何……言ってやがんだよ。お前は俺だって……? ざけんじゃねーよ!!!俺の中に女みたいなお前がいるわけがねぇ!!! なんだよ、そんなに体くねらして。気持ち悪いったらありゃしねぇ!!!」 キッと完二が相手を睨む。 もう一人の完二は口の端を上げて笑った。 「あ……」と雪子が声を上げる。そう、これまで見てきた展開と同じ。 みんな、対峙する自分を否定してきた。 雪子だってそう。否定するなといわれても、本能のまま動く自分を否定したくなる。 それが人間というものだから。 そして今、完二も目の前の素の自分を否定しようとしている。 「そんな冷たいこと言わないでよぉ〜。ひどいじゃないか。 君は僕で、僕は君。君の中には女の子みたいな僕が眠っていたんだよ? ねぇ、僕を否定するの?否定していいの?もう一人の僕?」 ゆっくりと、ふんどし姿の完二が近づいてくる。 完二はじり……と数歩後ろに下がった。 「ち、近づくんじゃねぇ!!!お、おい!!!近づくなっつってんだよ!!!」 「完二っ!!!否定すんじゃねー!!! お前がそいつを否定すると、大変なことになるっ!!!」 大きく陽介が叫ぶ。振り返った完二の顔には、焦りの表情があった。 見られた。このやりとりを。目の前にいる自分を。 一気に羞恥心が湧き、どやっと汗が吹き出てくる。 完二は早口でまくし立てた。 「お、お前ら……!!!み、見んじゃねーっ!!!こいつは………こいつは……」 「完二っ!!!」 鋭くも叫ぶが、効果はなかった。 「こいつは俺じゃねーんだぁぁぁぁぁぁぁーっ!!!!」 彼の雄たけびが上がり、ふんどし姿の完二は高く笑った。 どんどん力が増していく。その感覚に、たちは鳥肌がたった。 やはり戦いは避けられない。は武器を手に取る。 同じようにも新しく調達してきた武器を構えた。 目を閉じれば、今つけているペルソナが頭の中で揺らめく。 「お、おい……なんだよこれ。力が抜けて……」 膝から崩れていく本物の完二。 雪子が彼に駆け寄ろうとするが、敵が高く飛び、ズドンと彼女の前に立ちはだかる。 同時に、呼ばれるようにして現れる新たな敵、ナイスガイとタフガイ。 みんなは真剣な顔つきで、武器をかまえる。 それを見たシャドウ完二は、意味ありげににやりと笑った。 「この僕とやりあうっていうの?嬉しいなぁ〜。こんなに構ってもらえて。」 「お前と遊んでる暇なんてねーんだよ!!!」 陽介が答えると、シャドウ完二は目を細める。 「つれないなぁ〜。」と一言言うと、ボソッと何かを囁いた。 その瞬間、と陽介に異変が走る。 二人は同時にガクっと膝を折ると、額に手を当てて体を震わせた。 「ちょっとどうしたのよ!!!花村に君っ!!!」 「く、苦し………。何か突然、力が抜けて……汗が……」 息も絶え絶えに答える陽介に、雪子が走りよった。 もしゃがんでの状態を見る。彼は毒におかされていた。 陽介も同じように………。 「?しっかりして。今ポズムディを………」 「悪い……な、。」 苦しそうにが笑った。雪子も陽介にどくだみ茶を与えようとしたその時………。 再びシャドウ完二が何かを囁く。 「また!?」と千枝が思ったが、今度は自分に異変が起こった。 何故だかすごく、イライラする。今すぐにでも敵にぶつかっていきたい。 心の中の自分が、「だめ」と叫ぶが、そんな自分がやがて押しつぶされていく。 「こんにゃろぉぉぉぉぉぉぉーっ!!!」 「里中っ!?」 「おしまいよっ!!!!」 「天城っ!?」 二人の異変に気付いた陽介とが声を上げる。 けれども千枝や雪子は気付かない。怒りで我を忘れているようだった。 そんな二人を見ながら、はペルソナを発動させた。 陽介と、二人にポズムディをかける。 苦痛がすぅっと消え、二人は立ち上がることができた。 次にがむしゃらに攻撃を加える女子二人に、鎮静剤を与える。 雪子と千枝は顔を見合わせ、慌てて三人のところに戻ってきた。 はそれを確認すると、何か考えるようにして下を向く。 「ごめん!!! 何か私たち、怒りで我を忘れちゃってたみたい……って、どうしたの?」 帰ってきた千枝がを覗き込んだ。 「あの、私気付いたんだけどね、シャドウ完二の囁きって、男女とでは効果が違うと思うの。 きっと男子では毒になって、女子では憤怒になるんだと思う。」 「でもあんなの、防ぎようがねぇーだろ。」 クナイを握り締める陽介。そんな彼に笑顔を見せる。 彼女は言葉を続けた。 「うん、だから………ここは一気に攻める作戦で行きましょう? ねぇクマ、あいつらのスキルや弱点を教えて?」 細くて白い指が、タフガイとナイスガイを指す。 クマは慌てて彼らのスキルや弱点をのぞき見た。 タフガイやナイスガイたちに弱点がないことに絶望を感じたが、 唯一、マカジャマに弱いことが分かる。 「うーんと……一番ヤッカイなのはナイスガイクマね。 ディアラマとか、タカルジャとかを持ってくるクマ。 残念ながらあいつらに弱点はないクマ。けど、唯一、マカジャマに弱いクマね。」 その瞬間、ハッとする。大きく目を開き、みんなに言った。 「マカジャマ………。そうか!!!それなら何とかなるかもな。 よし、今回はの言うとおり、一気にカタをつけよう。 、お前は俺と一緒にサポートに回ってくれ。は補助魔法を担当してほしい。」 「了解。」 「陽介と千枝とコロマルは攻撃担当。まずはナイスガイから倒してくれ。 そのあとタフガイは無視し、シャドウ完二を一気に潰す。」 「おっしゃ!!!任せとけって相棒っ!!!」 「わかった。やってみる!!!」 「ワンッ!!!!」 「天城は回復担当。誰かがヤバくなったら、回復してほしい。 それまでは陽介や千枝の指示にしたがってくれ。」 「わかったわ。」 の指示で、みんな散り散りになった。 はペルソナを変えて、陽介や千枝、コロマルにタカルジャをかける。 リーダーであるは、マカジャマでタフガイたちを魔封状態にした。 雪子は回復をかけつつ攻撃をする。千枝と陽介は全力で敵にぶち当たった。 ピンチに陥る時もあったが、お互いが助け合うことで最悪の事態は免れた。 誰一人欠けることもなく、敵を倒していく。 最後に千枝が攻撃をした時、シャドウ完二の雄たけびが上がった。 「なんで………なんで僕を解放させてくれないんだよぉぉぉぉぉぉっ!!!」 彼のその叫びは、どこか悲しいものだった。 完二は夢を見ている。夢の中の自分は、まだ幼い。 大人の完二は幼い自分の横にいた。 「わーっ!!!完二君ってきもちわるーい!!!男の子なのにお裁縫だってぇーっ!!!」 「だっさーい!!!完二君とはもう口きかなーい!!!」 「お裁縫って、女子がするもんだろーっ!?お前がすんじゃねーよ!!!」 口々にそう言って、走り去っていく男子達。 「待って!!!」と涙声で幼い完二が叫ぶ。けれども誰一人、待ってくれなかった。 そのまま幼い完二は唇をかみ締めて涙を流す。 手には自分で作った人形が握られていた。力いっぱい握っていたため、すこし潰れている。 しばらく一人で泣いた完二は、手に握られたそれに視線を落した。 母に教えてもらいながら作った、ウサギのぬいぐるみのキーホルダー。 友達にあげようと持ってきたのに、友達はみんなそれを見るなり完二を軽蔑した。 そんなの女の子のするもんだろ……と、一人はキーホルダーを完二に投げつけた。 残り二つは、友達からどこかへ投げ飛ばされて消えてしまった。 幼い完二はぎゅっと再び人形を握った。 「こんなの………!!!」と腕を振り上げ、キーホルダーを地面に叩きつける。 ハァハァと肩で息をしていると、誰かがそれを拾い上げた。 「………これ、可愛いね!!!」 涙の溜まった瞳を上げると、にこやかに笑う女の子がいた。 土の汚れを払って、キラキラした瞳でキーホルダーを見つめている。 幼い自分の横にいた大人の完二は、目を大きく開いて呟いた。 「、さん…………?」 そこで世界が歪む。大人の完二は足元から崩れ落ち、奈落の底へ落ちていく。 その瞬間思った。これは昔の出来事だと……。 同時に、完二には分かったことがある。そう、さっきのは確かに自分。 遥か昔に自分が心の底に沈めた、もう一人の……。 友達を失くしたくなくて、もう一人の自分を殺した。 女みたいな自分がいやで、男らしさを追及し、それが本当の自分だと思わせた。 「俺は………間違ってたんだな。」 完二がそう囁いた瞬間、光が飛び込んできた。 眩しくて目を閉じる。次に目を開けたとき、彼を覗き込む懐かしい顔を見た。 「完二君っ!!!」 「……………さん?」 その言葉を聞いて、が微笑んだ。その後、すぐに違う声が上がる。 「完二くんっ!!!よかった………。」 彼が体を起こすと、そばで雪子が泣き笑いを浮かべていた。 確か天城旅館の………雪子先輩。そのままぐるっと周りを見回す。 あの時自分を尾行してた彼らが、ほっとしたような表情を浮かべていた。 そして視界に入ってくるもう一人の自分。 黒い瘴気を立ち上らせながらも、全く動かない。 完二はムスっとした顔をして立ち上がった。 ゆっくりそれに近づき、拳を握って大きく叫んだ。 「おらっ、歯ぁー食いしばれやっ!!!」 バキっ!!!と鈍い音がして、もう一人の自分が吹っ飛ぶ。 後ろから上がった「あっ!!!」という声を無視して、完二はもう一人の自分を睨んだ。 彼は立ち上がってくる。シャドウ完二も目の前にいる本物を見た。 「お前が俺ん中にいたのは知ってたんだよ。けど、気付かないふりしてきた。 こんなカッコワリィ自分がいるのなんて、認めたくなかったんだよ。 けど、今の俺も自分、カッコワリィお前も自分。認めてやるよ、お前は、俺だって。 だからよ、そんなみっともねぇー顔すんな!!!」 シャドウ完二が少しだけ微笑んだ。 そして彼は消えていく。その代わり、新しい自分が現れた。 名前を『タケミカヅチ』。巽完二のペルソナ………。 |