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林間学校が終わり、現地解散となってから、たちは川へと来ていた。
せっかく自然豊かなところに来ているのに、遊ばないで帰るなんてありえないという、陽介の提案からだった。
今考えてみれば、これが見たかったのかと、は目の前の女子たちを見ていた。
みんな水着を着ている。という自分も、先日堂島からもらった水着を着ているのだが………。

「うっは!!!すっごい麗しい光景だな!!!」

いつもより陽介は元気なようだ。
それもそのはず。陽介が選んだ水着を、千枝や雪子、までもが着ているのだから。

「やっぱ天城は細いなぁ。は色白でスタイルも文句なしだし。
里中はー………まぁいいんじゃね?」

「ちょっ………!!!それどういう意味よ!?まるで私がオマケみたいな感じじゃん!!!」

「実際オマケだろ!?このメンバーだと………」

「花村っ!!!あんたいっぺん死んでみるっ!?」

陽介と千枝のじゃれあいを無視する他のメンバー。
はじーっとを見ていた。
前々から思っていたが、彼女は本当に細い。
それなのに、人一倍ペルソナを使い戦うのだから、どこにそんな力があるのか不思議になってくる。

ペルソナは心の力………。

やはり体力などではなく、精神力の問題なのだろうか?
そんなことをぼんやり考えていると、控えめに声がかかった。

「あ、の………?そんなに見られると恥ずかしいんだけど………。」

が顔を真っ赤にさせてモジモジしていた。
その横で、完二がにガンを飛ばしている。

「先輩、今姉ちゃん見て、やらしいこと考えてなかったっすか?」

「…………は?」

いや、違う。俺は今ペルソナと精神力の関係性を考えていたわけで………。
なんて言葉を言う前に、ややこしい人物が介入してきた。

、まさかお前………むっつりだったのか!?」

は頭を抱えた。
これ以上何か言ったら、話がややこしくなりそうだ。
とりあえず、「むっつり」の部分は否定しておかなければと、彼は思う。

「別に俺は、むっつりじゃ…………」

「そーかそーか。俺はお前の意外な一面を知れてよかったよ。
まぁ、こんなにスタイルがいい女子を目の前にしたら、どうしてもムラムラくるよなぁ。
あ………もちろん里中を除いて。」

「あんたやっぱりいっぺん死んでみないと分からないみたいねっ!!!!」

顔を引きつらせた千枝が、勢いよく陽介を蹴った。
彼女の蹴りは見事に命中し、陽介は川の中へとダイブする。
その瞬間、思わずを掴んだものだから、彼も陽介と一緒にダイブする形となった。
バッシャン!!!と激しく水が飛び散る。
ずぶぬれの二人を見て、完二が声を上げて笑った。

「てめぇ!!!お前も道連れだ!!!なっ、!!!」

「………ああ。先輩だけ水に浸かるってのも、面白くないしな。」

と陽介は意見を一致させ、一斉に完二を水の中へ引きずり込む。
再び、激しく水が舞った。
あまりにも激しかったものだから、舞い散った水は女子3人をも濡らす。
川の水の冷たさに、3人はそれぞれ声を上げた。
それを陽介が面白がり、川の中から3人に水をかける。
すぐに水の掛け合いが始まった。
みんなまるで、子供に戻ったようにはしゃぐ。
しかしその楽しげな雰囲気を、一つの唸り声が台無しにした。

「おっぷ………昨日はちょっと飲みすぎたなーっと。
おえ……さすがに気持ち悪くなってきたー………おえっ!!!えろえろえろー………」

滝の上から聞こえてきた声に、みんなが凍りつく。
どうやら担任の諸岡が、滝の上で吐いてるようだ。
しばらく思考がストップし、男子全員は悲鳴を上げて水から飛び出した………。









「…………、帰ったらすぐ風呂に入ってもいいか?」

家へと帰る途中、はむすっとした顔をしながらに尋ねた。
川でめいいっぱい遊び、身も凍るような恐ろしい体験をしたあとみんなと別れ、
は一緒に帰宅していた。
「もとはといえば、陽介が川で遊ぼうとか言い出したせいだ」などと、珍しくは怒りをあらわにしていた。
まぁ、の気持ちは分からなくはない……と、も思う。
でもまさか、あそこで諸岡が吐くとは誰が予想していただろうか………。

「なんというか………タイミングが悪かったのね。」

知らぬが仏………。そんな言葉さえ浮かんだ。
実際知らなかったほうが、心も軽かったかもしれない。
そんなことをぼんやり考えていると、がふと、足を止めた。

、そんなに気にしなくても大丈夫よ。………多分だけど。」

が苦笑する。しかし彼のしかめっ面はなおらなかった。
彼はの顔を見て、「いや、今考えたのはそのことじゃないんだけど………」と呟く。
再び歩きだし、の隣に肩を並べた瞬間、彼は口を開いた。

「昨日の夢の話のことなんだけど………」

「………夢?ああ、もしかしてが見た、イザナギとイザナミの夢のこと?」

ちらりとの視線がに向けられる。

「ああ。そのことなんだけど、なんでイザナギやオルフェウスは、あの時後ろを振り返ったんだろうな。
振り返らなければ、また一緒にいられることができると分かっていたのに……だ。」

夕日が彼の顔を照らす。あたり一面、真っ赤だった。
遠くで犬の鳴き声がする。どことなく、コロマルが鳴いているような気がした。
隣にいるは、しばらく沈黙していたが、犬の声が聞こえなくなる頃言葉を紡いだ。

「自分に負けたんじゃないかな。」

「自分に、負けた…………?」

「うん、そう。
イザナギやオルフェウスも、きっと自分の中で葛藤したんだと思う。
後ろを振り返りたいと思っている自分と、それを良しとしない自分。
結局二人は、後ろを振り返りたいと思っている自分に負けたのね。
その行為が、どんな結果を招くか知っていながら…………。

「自分の意志の弱さが、チャンスを失うきっかけになった………か。」

は空を仰いだ。
意志の弱さ………それはおそらく、自分にもあるものだろう。
この先、戦いの中で自分の意志を貫かなければならない時が出てくるかもしれない。
そんな時、自分の意志の弱さが、取り返しのつかない結果を生み出してしまわないか不安で仕方ない。
彼の不安な表情から全てを読み取ったのか、はかすかに笑って言った。

なら大丈夫よ。なんてったって、イザナギがペルソナなんだから。
イザナギはね、人間を一日に千人殺すって言ったイザナミに対してこう言ったの。
『それなら私は、人間が滅びないように一日に千五百人の人間を生ませよう』って。
彼は最後に、自分の犯した過ちの結果と向き合ってる。だからきっと、も向き合える。
自分の過ちで生んでしまった結果と………。」

家が近くなってきた。
庭先からコロマルが飛び出してくる。それと一緒に菜々子も。
は大きく手を振った。
も一人と一匹に向かって、右手を軽く上げた。

意志の強い自分。意志の弱い自分。
の中にはいろんな自分が住んでいる。
沢山の仮面を持った自分。イザナギやオルフェウスの中にも、いろんな自分がいた。
ペルソナ……仮面。仮面をかぶり生きる人間。
イザナギやオルフェウスがあの時かぶった仮面は、きっと意志の弱い自分という仮面だった。
もしが同じ立場に立たされたら、自分はどんな仮面をかぶるのだろうか?
できれば俺は、意志の強い自分という仮面をかぶりたいと彼は思った。







堂島家の一室で、と菜々子はテレビを見ている。バラエティー番組だった。
若手芸人やアイドル軍団が司会者としゃべっている。
今しゃべっているのは、学校でも話題になっていた久慈川りせ。
トレードマークの二つ結びの髪を揺らし、艶やかな唇でしゃべっている。

「そうだよねぇ。りせちゃんは忙しいもんね。
じゃありせちゃんは、アイドルとかじゃなくて普通の高校生になったら何したい?」

「えー?普通の高校生になったらー?
やっぱり恋したい!!友達とかと恋バナしたり、おしゃれして彼氏とデートしたり……。」

「はいはいー!!それじゃ僕、りせちゃんの彼氏に立候補しまーす!!」

「お前は何言うとんねん!!ボケは漫才の時だけで結構や!!」

ブレイク中の若手芸人が笑いをとったところでCMとなった。
菜々子がニコニコしながらCMを見ている。
久慈川りせが出ているジュースのCM、ケロリンマジック。
今、菜々子の目の前にはそれが置いてあった。
先日と一緒に買い物に行った時、彼女に買ってもらったらしい。

「はぁー。本当にりせちーは可愛いね。」

ジュースを飲みながら菜々子が言う。
菜々子も可愛いと思うけど……。そんな言葉を、は飲み込んだ。
頭の中で「シスコン」というワードが浮かび、彼は少し苦笑した。
いや、自分はそこまではないな……。

「私にしてみれば、ナナちゃんのほうが可愛いかな。」

台所にいたが、ためらいもせずそう言った。
やはりこういう言葉は男子が言うより女子が言ったほうが抵抗がない……。
はそう感じた。

「お姉ちゃんも可愛いよ!!
りせちーも好きだけど、菜々子はお姉ちゃんのほうがもっともっと好きだからっ!!
ねぇ、お兄ちゃん!!お兄ちゃんもお姉ちゃんのこと、好きでしょ?」

「ごほっ!!げほげほげほっ!!」

急に話をふられて、はゆったり飲んでいたお茶を吹き出した。
菜々子の使った、「好き」という言葉に反応したのだ。
以前、陽介に尋ねられたことを思い出した。
気になってる人は?
と答えた。

「お兄ちゃん……?」

心配そうな顔をして覗き込む菜々子に手を振る。大丈夫だと。
突然、温もりを背中に感じた。

、大丈夫?」

台所にいたが、隣にいた。
に声をかけながら、ゆっくり背中をさすってくれている。
の存在を意識してしまって、大きく心臓を高鳴らせた。顔もだんだん熱くなってくる。

「だ……大丈夫、だから。」

やっとのことで言葉を口にすると、の手は背中から離れていった。
ほっとした気持ちと、残念な気持ちが入り乱れる。

「ただいまー。」

タイミングよく、玄関のほうから音がして、堂島遼太郎が帰ってくる。
菜々子とが玄関へと行ったため、だけが居間に残された。
赤いはずの顔に手をやって、ぽつりと呟く。

「好き……なんだろうか?」

この気持ちが、よく分からない。
気になってはいる。
があんまり、自分のことを話さないから。
のことをよく知りたい。仲間として。リーダーとして。
でも……本当に、それだけ?

混乱を振り払うようには立ち上がった。
もう、部屋へ戻ろう。今日はなんだか疲れた。
台所にいた堂島に「おかえり」と言い、は自室へと向かった。

彼に「ただいま」と答えた堂島は、缶ビールを片手に居間へと行く。
普段、酒はあまり飲まない。いつ仕事で呼び出しがかかるか分からないから。
でも今日は飲まなきゃやってられない感じだ。
原因は……そう、今テレビにうつってる人物。

久慈川りせ。

まだ伏せられていることだが、彼女が芸能界で活動を休止し、
稲羽商店街にある祖母の家に帰ってくるそうだ。
野次馬やストーカー対策で、なぜか本署が動かなければならなくなってしまった。
商店街の巡回も強化されるということで、未解決事件にさける人手も減らされてしまう。
ただでさえ人手が足りないというのにっ!!
堂島は厳しい瞳でテレビに映るりせを見ていた。

「堂島のおじちゃんは、ああいう子が嫌いなんだ。」

茶化すような声があがった。
天ぷらが並ぶ皿を机において、が笑っていた。

「そういうわけじゃないさ。ちょっと仕事でいろいろあってな。
ああいう職業の奴らは、脳天気でいいよなーって考えてただけだ。」

ビールを飲み干す。ぐびっと喉がなって、冷たい液体が胃まで落ちていく。
白ご飯を天ぷら皿の横に置きながら、が小さく呟いた。

「ああいう世界も、いろいろあるんじゃないかしら?
きっと、大変なのはどこも一緒。
まぁ、遼おじちゃんは刑事だから、もっともっと大変なんだろうけどね!!」

彼女の言葉にドキっとした。
はりせが、芸能界を休止することをすでに知っている……?
の顔を見れば、無邪気な笑顔が浮かんでいた。
堂島は自分に言い聞かせる。
知らないはずだ。これは稲羽署の中でも、まだ内部だけの秘密。
連絡してきたプロダクション側も、まだ公表はしてないと言っていた。

「遼おじちゃん?食べないの?」

キョトンとするに苦笑を見せながら、堂島は慌ててはしを持ち、料理に集中した。
テレビから聞こえるりせの声が耳にまとわりついて離れなかった……。









#28 意志弱き仮面、強き仮面。