シャドウりせを前にして、たちは焦りを見せていた。

「攻撃が……当たらない?」

千枝が小さく呟いた。
みんなで一斉に攻撃するが、シャドウりせには絶対に当たらないのだ。
さっきから何度やっても結果は同じ。
完二が雄叫びを上げながらペルソナを発動させた。タケミカヅチは一直線にシャドウりせに向かう。
力の塊を放ったが、綺麗に外れた。

「チッ……!!またかよっ!!おいっ、どうなってんだこりゃ。」

完二がシャドウりせを睨みつける。
こっちからの攻撃は外れるくせに、向こうからの攻撃はヒットする。
これじゃあ負けるのは目に見えているではないか。
みんなが焦る中、はじっと考える。シャドウりせは、攻撃を読んでいる……?
はペルソナを変えた。

「ペルソナっ……。」

彼女の目の前に、金髪の少女が現れた。
黒いドレスワンピースを身にまとい、可憐に微笑んでいる。
絵本に出てくる、不思議の国のアリスそのもの……。

「メギドラオンっ!!」

はこの攻撃にかけてみた。
万能系の最強ワザ。もしこれが効かなければ答えは一つ……。
シャドウりせの周りだけ空気が収縮し、光りが生まれた。
シャドウりせを中心に、メギドラオンの光が広がっていく。
だがそのメギドラオンでさえ、彼女に避けられてしまった。

「やっぱり………彼女は私たちの攻撃を読んでいるわ。」

たぶん、それだけじゃない。
自分たちのペルソナがどんなタイプで、どんなスキルを持っているのかさえ分かっているはずだ。
そう、シャドウりせの能力は………

「風花先輩と同じ……。」

ボソリと呟いたの言葉を、が口にした。

「風花先輩と同じって……?」

「2年前、一緒に戦ったメンバーの中に、相手の能力やスキルが見える先輩がいたの。
その先輩は戦う能力は持ってなかったけど、解析能力だけはすごく高かった。
もし同じ能力なら、私たちの攻撃は何をやっても当たらない……。」

ぐるりとメンバーの顔を見る。その言葉に、みんなの表情が固まる。

「それじゃ俺たち……」

勝てないのか?

陽介がその言葉を呟く寸前に、シャドウりせが笑い声を上げた。
まるで、この一方的な戦いを楽しんでいるように。

「あーら、もう終わりなの?期待はずれね。もう少しは楽しめるかと思ったのに。
それじゃ今度は、こっちからお返しするわっ!!」

シャドウりせから、いろんな攻撃が飛ぶ。
陽介には電撃、千枝には火炎、雪子には氷結、と完二には疾風。
それらはそれぞれの弱点で……。

「うわぁっ!!」

「きゃ!!」

「うおっ!?」

捜査隊メンバーは、一斉に体勢を崩した。
弱点のないコロマルとだけはりせの攻撃に耐え、冷静にその場の状況を見ている。

(このままじゃ……!!)

次の攻撃を仕掛けようとしているシャドウりせ。
はシャドウりせの前に走り出た。
もしも彼女に、少しでも久慈川りせとしての自我が残っているのなら……!!

「やめ……ろ!!っ、危ないっ!!」

倒れたが表情を歪めて叫ぶ。それでもは引っ込まなかった。
隣には攻撃体勢にはあるが、牙を見せていないコロマル。
はゆっくりシャドウへと話しかけた。

「ねぇ、あなたは作られたりせちーを演じたくないと思ってるのよね?」

「ええそう!!あたしはずっと、りせちーなんてなくなればいいと思ってた。
本物のりせがりせちーを演じてる時、いつも傷つくのはあたし。
それなのに、アイツはあたしを見ようともしなかった!!」

鋭い叫びがこだまする。今までのみんなと同じだ。
存在を否定され、目を逸らされ続けた本当の自分。
でもシャドウりせには少し、疑問があった。

「それならなんであなたは、りせちーとして、この番組を作ったの?
そんなにりせちーが嫌いなのに、どうしてりせちーの恰好をしているの?」

今までのシャドウたちは、なりたい自分を出していた。
誰も知らない遠くへ行きたいと願う雪子は、姫となり連れ出してくれる王子様を待っていた。
すべてをさらけ出したいと願う完二は、ふんどし一枚でみんなの前に現れた。
でもりせだけが……嫌いなはずのりせちーを演じてる……。

「何が言いたいのよ……。」

ムッとした彼女に向かって、は言った。

「あなたはりせちーがイヤだと言ってるけど、
本当はりせちーというキャラクターが自分の中にいてもいいと思ってる。
本当はあなたもりせちゃんも、作られたはずのりせちーだって立派な自分だと………」

「……うるさい。うるさいうるさいうるさいっ!!
あんたなんかにそんなこと言われる筋合いはないのよっ。
……ねぇ、あたし分かってる。あなたさえ殺せば、この戦いはオワリ。
一番強いあなたがいないパーティーなんて楽勝だもん!!」

シャドウりせはスキルを発動させた。
火炎でも電撃でもない、空気さえ固まる攻撃スキル……。

(メギド系……!?)

「ねぇ、死んでくれるよね?オ、ネ、エ、サ、マ?」

光が集まる。メギド系は避けられない。
今のペルソナだったらレベルが高い分、少しは耐えられるだろう。
でも次は……ない。

「っ!!逃げろっ!!俺達にかまうなっ!!頼むから逃げてくれ――――っ!!」

は必死に叫んだ。
悲鳴を上げる体に鞭うって、立ち上がろうとする。足に力が入らなかった。
は集まる光の塊だけを見ていた。足元にコロマルが寄り添う。
準備はできた。あとはあの攻撃を堪えるだけ……。
そう思った瞬間、何かが彼女の前に立ち塞がった。

「……クマっ!?」

「わわわわ!!クマは何をやってるクマか!?
なんにもできないくせに、体が勝手に!!けどクマは、みんなを助けたいクマ!!
もうクマは見てるだけなんて……イヤクマ!!こうなったら………やってやるクマ!!!
クマの生き様、しっかり見てるクマよおおおおおおおおお!!」

クマの体が光を放ち出す。
膨大なエネルギーを感じてか、シャドウりせの戸惑いの声が上がった。
光輝くクマを見て、陽介が叫んだ。

「クマっ!!お前何してんだ!!馬鹿やめろ!!そんなんじゃお前がっ!!」

「お、おおおおおお!!」

クマは手足をじだばたさせ、そのままシャドウりせに突っ込んでいった。
ここで失うわけにはいかないのだ。大切な仲間たちを。
一緒に答えを見つけようと言ってくれた、やを………。
だんだんシャドウりせと距離が縮まる。ぶつかるっ!!
そう思った瞬間、体に鈍い痛みと、視界に光が飛び込んできた。
クマはなぜか、この痛みが嬉しかった。
自分が生きているという証明がされたような気がしたから。

(クマはまだ、生きているクマか………?)

そんな疑問を持った時、仲間たちの声が聞こえた。
必死にクマを呼ぶその声が…………。クマは重い瞼をあけた。
最初に見えたのは、泣き笑いを浮かべている千枝の顔。
や陽介たちも安心した顔をしていた。
ぐるりと首を動かし、自分がぶつかった相手を見る。
すぐそこで、シャドウりせと本物のりせが倒れていた。

「馬鹿クマがっ!!心配させやがって………」

完二の罵声飛んでくる。けれどもその中に優しさを感じた。
陽介はクマの目をまっすぐ言う。「命の恩人」だと。
との二人も、クマを見ながら何度も頷いていた。
きっとこんな力を出せたのは、みんなのおかげ。一人になるのはいやだったから。
ふと、クマは自分の体を見る。コトの重大さを理解したクマは素で叫んだ。

「なっ………なんじゃこりゃあああああああ!!!!
クマの自慢の毛並みがああああああ!!!!!お、おおおおおおお………。」

「とりあえず、死にそうではないな。」

陽介の苦笑が響く。そのままみんなは、クマをすり抜けてりせの元へと走った。
りせは目を醒ます。目の前にいる彼らが、お店にきた人物だと分かって微笑んだ。
助けにきてくれた………。彼らが。
りせはそのままシャドウの自分へと視線を移す。
「立って」という問いかけに、目の前の自分は素直に従った。

「ねぇあたし、いつもどれが本当の自分なのかをずっと考えてた。
でもそれって、考えちゃいけないことなんだよね。だって、全部があたしなんだから。
本当の自分なんてない。
あなたも、テレビの中で楽しそうにしゃべるりせちーだって、全部あたしから生まれた。
全部、本当のあたし………。あなただって、本当はそれに気付いてたんだよね?
だからあなたは、りせちーの格好をして出てきた。りせちーだって、本当のあたし。
ごめんね、今まで辛かったよね。あなたを傷だらけにしたのは、ここにいる私。
本当にごめん……。」

りせは涙を流し俯いた。クスっと笑ったシャドウりせが、本物のりせを抱きしめる。
そのまま背中をさすった。

「気付いてもらえたなら、もういいよ。あたしもあなたを苦しめて、ごめんね。
あたしを傷だらけにしたはあなただけど、あなたを傷だらけにしたのは私。
だから、おあいこだよ?」

彼女はそういい残し、光をまとう。
りせを抱きしめていた影が消え、代わりに神々(こうごう)しい姿が現れる。
りせは戸惑いつつもそれを見上げた。

「それが、あなたのペルソナ。正しい力を得た、もう一人のあなた。」

が静かに言った。

「私の………ペルソナ。」

手をのばせば、タロットカードとなってりせの体に青い光が流れていく。
ズンと重くなった体。耐え切れなくなり、りせはペタンと座り込んでしまった。
それを見て、心配そうに陽介が顔を覗き込んだ。

「りせちー、大丈夫!?」

「確か、お店に来てくれた人たちだよね?助けに来てくれたんだ。ありがとう。
りせちーじゃなくて、りせでいいよ。」

「とにかく、無事でよかったよ。俺は八十神高校2年の花村陽介。
こっちが里中千枝と天城雪子。んで、そこにいるのがと。
後ろにいるのが、1年の巽完二。」

「………そっか。先輩になるのか。よろしく。完二とは同じ学年だね。」

りせは優しく笑った。どうやら少しは元気なようだ。
陽介がりせに手を差し伸べ、ひっぱりあげ立たせる。
ペルソナを得たときの疲労を知っている千枝は、すぐに現実世界へ帰ることを提案する。
そのままきびすを返して、彼女はただならぬ空気がまだ続いていることを悟った。
千枝の言葉が途切れたのを不思議に思った雪子は、千枝の見ているほうへと視線を移す。
そのまま言葉を失った。
みんなと少し離れて、小さく言葉を呟いているクマ。

「本当の自分なんて、いない?」

そう呟くたび、クマの中でぞくりとした何かが大きくなっていく。
完二がクマに声をかけ、近づこうとしたとき、りせが大きく叫んだ。

「だめっ、近づかないで!!あの子の中からなにか…………」

「なにかって………一体………」

千枝がそう言いかけたとき、クマの低い声が響いた。

「本当?自分?実に愚かだ。」

クマの背後に、冷たい目つきをしたクマが姿を現す。

(クマの…………内面?)

はじっとシャドウクマを見つめていた。
シャドウクマの力が、びんびんと自分の体に突き刺さる。
まるで巨大シャドウと戦う前のような感覚に、自身戸惑っていた。
計り知れない力の大きさが、を押しつぶそうとしている。

「何っ?どうしたクマ?クマの後ろになにか………おわっ、な、なんじゃこりゃ!?」

クマが後ろを振り返り、もう一人の自分に気付く。
シャドウクマは冷たい目つきのまま、言葉を続けた。

「真実は常に、霧に隠されている。
手を伸ばし掴んでみても、それが真実だという証拠はどこにもない。
なら、真実を求めることに何の意味がある?
目を閉じ己を騙し、ラクに生きていく。そのほうがずっと賢いじゃないか。
なぁ、。」








#33 傷だらけのわたしたち