「陽介!!!すっごく綺麗だよ!!!」

自分の少し先で、陽介の彼女であるが嬉しそうな声を上げた。
本日のデートコースは、稲羽市にある高台。
天気も快晴に恵まれ、申し分ない。
景色だってこの通り、辺り一面やわらかなピンク色の世界。

「本当だな!!!一面ピンク色。満開じゃねーか。」

の横に来た陽介も感嘆の声を上げる。
都会じゃめったに見られない世界がそこにあった。
横に目を向ければ、うっとりした目で桜を見ているがいる。
こんな幸せなことがあるだろうか。美しい世界で、愛しい人と二人っきり……。
あの激しい戦いが嘘のようだ。

……一年前の春は、こんなふうに穏やかな日が嫌いだった。
ペルソナに目覚めた時、何かが始まり、穏やかな日とはさよならだと、陽介は喜んだ。
けれども……今はこのおだやかな日が好きだ。

「あっ………。」

突然風が吹き、が乱れる髪を押さえる。
風に流れる髪とからまるように、散っていった花びらが舞っていく。
幻想的な世界に足を踏み入れたような感覚に陥る陽介。
彼はすぐに携帯を取り出して、カメラ機能を立ち上げた。

、こっち向いて。」

陽介が優しくそう言えば、彼女は髪を押さえたまま、にっこり微笑んだ。
風の音とシャッター音が重なりあう。
画面に現れた静止画像を見て、陽介はさらに頬を緩めた。
思ったより、綺麗に撮れたから。桜の世界にたたずむ、笑顔の少女。
その笑顔は自分のために向けられたものだと思うと、嬉しくてたまらない。

「ねぇ、どんなふうに撮れた?」

ひょいっと陽介の携帯画面を覗き込もうとする彼女。彼はすぐに携帯を閉じた。

「駄目駄目。これは俺の宝物にするから、には見せられねーな。」

「えー、何その理由。別に見せてくれてもいいじゃない。」

彼女はぷくっと頬を膨らませた。
そんな姿がとても可愛くて、陽介はさらに柔らかい表情を浮かべる。
陽介は写真を見せるかわりに、そっと彼女の耳元に唇を寄せ囁いた。

「大丈夫だって。すっげぇ綺麗に撮れたから。
でもやっぱり………実物が一番きれいだな。
満開の桜も、の前じゃかすんじゃいそうなくらいに……な。」

唇を離した瞬間、彼女は耳まで真っ赤になる。
「もうっ!!!」と上目づかいで睨んでくるを抱きしめて、肩に顔をうずめた。
甘い香り。陽介を魅了させるの香り。
このまま時間が止まってしまえばいいのに………。

そう思う反面、桜は風にゆれ、花びらが舞っていく。

「時間が止まってほしいのに、桜の花は容赦なく散っていくのね。」

ぼそりと陽介の腕の中でが言った。
その表情が悲しそうで、彼の胸がぎゅっと締め付けられる。
を抱く腕に力をこめた陽介は、静かに告げた。彼女を安心させるように。

、来年もまた来ような。その次の年も、また次の年も。
何度だって一緒に来ようぜ。この場所に。俺らが生きてる限り、ずっと、ずっと。
今日と同じ想いを、毎年抱いていきたい……。」

いつもの陽介よりも、ちょっぴり甘い言葉。
桜に魅せられているのかな?そんなことを思いつつも、は笑顔で頷いた。
来年も、その次の年も、大人になっても、年をとっても、ずっとここにこれたらいいな。
そう考えながら、は陽介に全てをゆだねるのだった。







桜の世界、君と二人