放課後、と話していた。
話が本の話題に移ったとき、がいきなり席を立ち、鞄をあせくる。

「どうしたんだ?。」

「実は今日返却する本があったの忘れてたの!
ごめん!ちょっと今から図書室行って返してくる!」

そう答えると、彼女は慌てて教室を飛び出していった。
教室の外で、「うおっ!」と陽介の声がする。
どうやらは陽介とぶつかりかけたようだ。
しばらくして苦笑しながら陽介が入ってくる。

「いきなりが飛び出してくるから、ビビっちまったじゃねぇーか。
それよりも、がいなくなって好都合だな。実はお前に話があるんだ。」

「話………?」

は眉をひそめた。陽介のことだ。またしょうもないことを考えてるんだろう。
そんなことを考えていると、突然陽介が言った。

「なぁ………うしろに乗せると、ぎゅうってなるらしいぞ。」

の頭の中で、陽介の背中を牛が抱きしめている図が浮かんでくる。

「………後ろに牛(ぎゅう)?」

の言葉に、一瞬陽介の動きが止まる。すぐさま陽介が反論した。

「ちげーよ!後ろに牛をのっけるんじゃなくって………!
だーかーらー、後ろに乗せると背中をぎゅうってされるってことだよ!」

やっぱりの頭の中で、牛に抱きつかれる陽介の図が浮かんでくる。

「………背中を牛(ぎゅう)?」

は真顔で尋ねた。「お前、わざとやってんのか?」と陽介が青筋を立てる。
そんな彼に、は冷静に言った。

「お前の話は、いつも主語がない。」

「………あのな、相棒なんだからちっとは分かれよ……。
つまり、バイクだよバ・イ・ク!
バイクの後ろに女子を乗せると、背中をぎゅうってされるってこと!
オイシイよなぁ!オイシすぎるよなぁ、そのシュチュエーション!」

「………アホだ。」

ボソっとがつぶやく。
そんな話をしていると、もう一人の男子生徒が二人のところにやってきた。
1年の巽完二。と陽介の話が見えず困惑する彼に、が免許の話をしていることを伝える。
完二はたちが原付の免許を持ってないことに驚く。
彼の驚き方に、今度は陽介が目を丸くして尋ねた。

「は!?まさか完二、お前原付の免許持ってんのか!?」

「いや、持ってないっスよ。俺まだ15なんで。」

「じゃあ族潰したとき、どうやって族を追いかけたんだよ……?」

「んなもん、チャリで十分っスよ!」

「「……………。」」

と陽介は黙ってしまった。確かに、完二なら自転車でも余裕だろう。
完二なら……の話だが………。
「とにかく!」と陽介は言葉を紡ぐと、
一気にバイクの免許を取ることがどんなにいいことかを熱く語りだした。

「いいかお前ら。俺たちに彼女がいないのは、彼女が俺たちを待ってるからなんだよ。
だから俺たちが出かけて行って、運命の出会いを果たすってわけよ。
動かなきゃ何も始まらないんだ。
それに彼女ができりゃ、その彼女をバイクの後ろに乗せてデートできるだろ?
ぎゅってされるだろ、ぎゅって!いいシュチュエーションじゃねぇーか!」

陽介の言葉に、と完二はそのシュチュエーションを想像した。

(ワイルドに決めた俺が、ねーちゃんを後ろに乗せて海沿いの道を走る。
バイクに慣れてないねーちゃんが、怖がって俺の背中にぎゅっと………。
な、なんておいしいシュチュエーション!)

(バイクの後ろに………。顔を赤らめながら俺の腰に腕を回す
背中にのぬくもりを感じて、二人でバイクでドライブデート………。
背中に牛………。いや、牛じゃなくて、背中にぎゅう……。)

「………陽介、バイクの免許………いいな。」

の言葉に陽介の目が輝く。「さっすが相棒!分かってくれたか!」と叫ぶ。
完二も「俺も取るぜ!」と叫んだが、15歳の彼はまだバイクの免許は取れない。
陽介がそのことを伝えるも、完二は聞く耳持たず、やる気溢れるまま教室を飛び出していった。

「よし、まずはお前の叔父さんに相談だな!免許の許可、取れるといいな!
おっし!そうと決まったら俺、家帰って早速勉強するわ!」

そのまま陽介も教室を飛び出していった。
入れ違いでが図書室から戻ってくる。
陽介の後ろ姿を目で追いながらに尋ねた。

「一体何事?
陽介と会う前に、牛(ぎゅう)がどうのこうの叫んでた完二君に会ったんだけど。
陽介も私の顔を見て、背中に牛(ぎゅう)がどうのこうの………。
わけわからないわ。」

困惑するに、が妖しく微笑んで一言言った。

「つまり、背中にぎゅう作戦だ。」

「背中に牛作戦………?
三人とも、頭大丈夫?背中に牛を背負って修行するの?
それとも、今度のボス戦のための、新しい合体ワザ?」

「そのうち分かるさ。」と意味ありげには呟いた。
もちろん、彼女に聞こえないように。







背中に牛(ぎゅう)








その日の夜、は早速堂島に原付バイクの免許のことについて相談した。
堂島はあまりいい顔をしなかった。
しかし台所で片づけをするをちらりと見ながら言う。

「あー……まぁ、お前なら免許を持たせても大丈夫だと思うがー……。
そうだなあ。も原付の免許を持ってることだしなぁ。」

その言葉に、はいち早く反応した。

、お前原付の免許持ってるのか!?」

「え?バイクの免許?うん、持ってるよ。高校1年生の時に取った。
向こうでは私、バイク通学してたもん。一応、愛車もあるよ。
最近は湯木家に置きっぱなしになってるけどね。
そうだ!今度を後ろに乗っけて、どっか海でも行こうか!
そうしようそうしよう!」

「こら、!原付の二ケツは交通違反だぞ!」

「冗談だよ、遼おじちゃん!
でも、私が小さいころ、遼おじちゃんってばよく私をバイクの後ろに乗せてくれたよね。
で、省吾おじちゃんによく言われてた。
『遼、警察が交通違反すんじゃない。』ってさ。ふふっ、懐かしい!」

「…………!!!。そんなもんは知らん。」

なんだろう、このミョーな敗北感は………。
さらっと笑顔で免許のことを言ったの前で、はそう思うのだった。