最近は不思議な夢を見ることが多かった。それなのに、あまり覚えていない。 ただ覚えていることとすれば、会ったこともない男女と一緒に戦っている。 妙にリアルなのが少し気になっているのだ。 起きたあとは極度の疲労感が襲ってくる。 その夢のせいか、最近はなんとなく寝た気がしない………。 今日だって、顔色が優れないという理由から、部室を追い出されてしまった。 「、今日は帰って休みなさい」と言う友人の顔は、いつもより深刻な顔をしていた。 ぼんやりといつもの道を歩きながら、はスカーレットの空を見上げる。 ぽかんと浮かんだ丸い月を見て、声を漏らした。 「今日は満月かなぁ。月がまん丸………。」 いつもよりギラギラ輝いていて、どこか怖いくらいだ。 そのまま月に見とれながら歩いていると、ドンと、誰かと肩がぶつかった。 「きゃっ!!!!すっ………すいません!!!」 「おっと!!!ごめんっ。」 少しキーが高めの声が降ってくる。 ぶつかった相手を見れば、綺麗な顔を持つ青年。困った顔をしていた。 肌は雪のように白く、肩までかかる髪は、生まれつきなのか少しウェーブがかかっている。 まるでモデルのような人。そして、夢の中の世界に住んでいそうな綺麗な人。 「君、大丈夫?なんだか少し、顔色が悪いみたいだけど。」 気付けば彼は、の顔を覗き込んでいた。慌てて両手を左右に振る。 「大丈夫です!!!」と答えると、青年は「そう?」と首をかしげた。 顔が熱い。恥ずかしさできっと、今自分の顔は真っ赤だろうと彼女は思う。 空がスカーレットをしていてよかった。きっとばれてない。 「ねぇ、ぶつかった僕も悪いけど、君もよそ見してちゃだめだよ。」 「あ、はい………すいませんでした。」 彼女は素直に謝る。ペコンと頭を下げると、青年が柔らかく笑った。 そのまま大きな手が伸びてきて、の頭をぽんぽんと撫でる。 彼の手は、すごく温かかった。 「ふふ、いいよ。君、月を見てたんでしょ? 君がアレに見とれる気持ち、分かるよ。今日の月は一段と綺麗だ。 スカーレットの空に浮かぶ満月。僕も見とれてしまいそう………。」 「え…………。」 頭を上げると、青年の瞳とぶつかった。 澄んだ彼の瞳はスカーレットに浮かぶ月よりも美しくて………。 同時にどこか、危険な感じがして……。 頭の中で警告音が鳴り響く。瞳を見てはいけない。逸らさなければいけない。 でも、それができなかった。 「………月も綺麗だけど、君の瞳も綺麗だね。」 お互いを見つめた数秒間後、青年が言った。 スッと温かい手で頬を撫でられ、は少し身を硬くする。 目の前で微笑んだ青年は、すぐに彼女の頬から手を離して呟いた。 「君の瞳も綺麗だけど、心もすごく澄んでいる。 きっと君のペルソナは、もっともっと綺麗なんだろうね。」 青年は、愛しいものを見つめるように瞳を細めた。 そのままの横を通り抜けていく。 見つめているしかなかった。彼の広い背中を。 優しい声色が頭にこびりついて離れない。 ペルソナって………なに? ペルソナ………どこかで聞いたことがある。呟いたことがある。 それはきっと、夢の中の自分が言っていた言葉。 あなたは何を知ってるの? そう聞きたくても、喉が張り付いていて声が出せない。 遠ざかっていく背中を見ていると、彼が不意に振り返った。 優しい表情を崩さないまま、遠くの青年は叫んだ。 「ねぇ、僕はイザナミっていうんだ。君とはまた、どこかで会えると思うんだ。 その時はまた、スカーレットに浮かんだ月を一緒に見ようね。それじゃあ、また!!!」 青年は軽く片手を上げて角を曲がった。 姿が消えて、ようやく呪縛から解放されたみたいな感覚に陥る。 止まっていた空気が流れ出し、は小さく息を吐いた。 空を見上げると、月のギラギラは先ほどよりもおさまったような感じがする。 怖い……という感情は、いつの間にか生まれてこなかった。 「不思議な………人。でも今日はなんだかゆっくり眠れそう。」 は月を見て微笑んだ。 |