銃声が響いて、何か重いものが倒れる音がする。
ぎゅっと目をつぶったままのは静かになった洞窟で、そっと目を開く。
しかしそれは叶わなかった。
ひんやりと冷たい手に目を覆われて、目が開けられない。

なぜ…………?

声を出そうとするけど、のどがカラカラに渇いて声が出なかった。
そうしているうちに、自分のよく知る声が聞こえる。

、見るな。」

何を…………?

「もう終わった。だから俺と帰ろう………。」

ルルーシュの声だった。
はやっとの思いで声を絞り出す。
愛する彼の名前を、小さく。

「スザク…………?」

「…………。」

「ルルーシュ、スザクはどうしたの?」

「……………。」

何も返事がなかった。
『スザク。』と自分の想い人の名前を呼んでも、彼のあの優しい声は聞こえてこなかった。
は異変を感じる。
さっきまで、スザクはルルーシュと言葉を交わしていたのに。

「ねぇルルーシュ、スザクは………?」

再度、スザクの親友であるルルーシュに問う。
だがやはり何も返ってはこなかった。
次第には自分の目に当てられた手を振りほどこうともがく。
愛しい彼の名前を叫びながら。

どうして目を覆われるのだろう?
なぜスザクは何も言わないのだろう?

疑問ばかりが浮かぶ。

「放してよルルーシュ!!!」

「そんなにスザクがいいのかっ!?」

が大声を上げた時、普段の彼からは想像できない荒い声が飛び出した。
同時に手がどけられて白い光が彼女の目を刺激する。
そして次第に浮かびあがってくる血に染まった人物。

枢木スザクだった。

地面に倒れ、眠っているかのように穏やかな表情。
彼の横で、真っ赤な血液が水溜りを作っている。
の体は一瞬で凍りつく。
そして理解する。
あの、人が倒れるような音はスザクのものだったのだと。

彼に駆け寄り、ゆさぶっても何も反応がなかった。
スザクの生温かい体温が、の手に絡み付いて取れない。

「いや…………。」

スザクはもう、息がなかった。
死んでしまったのだと、やけに冷静に考えることができた。
茶色い髪に触れてみる。
ふわふわの癖のある髪に触れ、はスザクを愛した。
もう、それは叶わないこと。

呆然とする彼女の腕をひっぱり、ルルーシュは無理矢理立たせる。
何の抵抗もなかった。

…………。」

彼女の頬に優しく手を当てるルルーシュ。
スザクからを奪うには、この方法しかなかった。
いつまでたってもルルーシュを見ないに苛立ち、力づくでも彼女を手に入れようと考えていた。
そしてたった今、そうなった。
はルルーシュのものとなった。

、愛してる。スザクよりもずっと………。だから俺を見て欲しい。」

スザクを殺した俺を、は恐れるだろうか?

できる限り優しく声をかければ、は瞳に彼を映した。
そのまま言葉を紡ぐ。

「誰がお前なんか………。」

その瞬間、彼に憎しみの炎が灯る。
彼女から、スザクが消えない。
彼女の中に、ルルーシュはちっとも存在していない。

「そうか。だったら俺しか見えないようにさせてやるよ!!!」

ルルーシュは声を荒げてに無理矢理深く口付けた。
抵抗する彼女を気づかうまでの紳士的な考えは、もはや彼の中にはなかった。
彼女を手に入れた喜びと、消えないスザクに対する憎しみだけがルルーシュを動かしていた。

「いや…………!!!」

震える声で叫ぶ。
息が苦しくなる中で、彼女は一つの考えにたどり着いた。
そうか、スザクを想う気持ちが消えれば、ルルーシュはきっと自分のことを優しく扱ってくれる。
彼が死んだとき、またスザクを想う気持ちを思い出そう。
だから今は…………。
は流れる涙にスザクを想う気持ちを乗せた。
その気持ちが完全に流れ出た時、

「ルルーシュ………あい、し、てる。」

ルルーシュの激しいキスを受けながら、途切れ途切れには言葉を紡ぐ。








これからわたしのいちばんは、ルルーシュ・ランペルージになるの。








白 と 黒 と 白 。