EU連合とブリタニアの国境沿いで、戦争が起こっていた。
ブリタニア領土の側に陣を敷くのは、シュナイゼル率いる軍と、
その指揮下に入るナイト・オブ・ラウンズ。
彼らは空を駆け、大勢の敵ナイトメアを潰していった。スザクも例外ではない。

一度投降を求めたが、相手は応じなかった。
「残念です」と呟いた彼は、容赦なくナイトメアを潰していく。
同時にブリタニア陸軍も進行していく。勢力はブリタニアのほうが上。
その理由は、とある一人の少女がここにいるから……。

あらかた片付いたところで、ナイト・オブ・ラウンズに退却命令が下る。
スザクはシュナイゼルの元へ帰るがてら、上空から陸軍部隊を見ていた。
そこに、似つかわしくない美しい少女が一人……。
一等兵たちと同じ服を来たが、先陣を切っていた。

手に握られる銃が敵を貫き、相手を飛び越えて背後をとり、サバイバルナイフで確実に仕留める。
その後、彼女に近づく敵兵は強力な回し蹴りをくらった。
は時に、ブリタニア陸兵たちの前に立ちはだかって、彼らの代わりに弾丸を浴びる。
鉛の弾はの体に突き刺さり赤い血が流れるが、それはニセモノ……。

人工皮膚の下はダイヤモンドよりも遥かに固いボディだ。
怪我をすることなんてまずない。そして、死ぬことも……。
最強の兵士と呼ばれる。その正体はサイボーグである。
スザクは瞳を伏せた。彼女はサイボーグゆえに、命令に従って戦い続ける。
そんな彼女が傷つく姿は……見たくなかった。

の戦う姿を見たあと、スザクがシュナイゼルの元に帰って来てみれば、
優しい顔で「お帰り」と言われる。
すぐに同僚のジノやアーニャも帰ってきた。

「それで、陸上部隊のほうはどうなっている?」

シュナイゼルは三人が無事帰還したのが分かると、近くにいた兵士に尋ねる。

「はっ。現在EU連合の陸上部隊と交戦中!!!コード000が圧倒的な強さを誇っている模様です!!!」

コード000とはの別称。
兵士の言葉にスザクは先程のの姿を思い出した。

敵兵をなぎ払い、弾丸を浴びる
痛みは感じない。死ぬこともない。
何も心配はいらない。壊れても彼女は修理すれば元通り……だ。
ぼんやりそう考えていると、無線から美しい声が聞こえた。

「敵の指揮官を発見。シュナイゼル殿下の指示を仰ぎます……。」

少し冷たい声と冷静な言い方にスザクは反応した。

(だ!!!)

不意に、シュナイゼルを見る。
一瞬彼は考え込んでから、はっきりと彼女に告げた。

「ブリタニアの交渉に拒否を示した彼らには、もう用はないよ。……殺せ。」

「イエス、ユア・ハイネス。」

そこでプッツリ無線が途絶え、その後すぐにブリタニア軍の勝利が伝えられた。
スザクは勝っても別に嬉しくない。喜びに声を上げる兵士たちを、ただ冷たい目で見ていた。
一方、敵の陣地にいたブリタニア兵たちも同じように喜びあった。
敵軍指揮官の死を確認した彼らは、の肩を叩いて笑顔を向ける。

さすがブリタニア軍最強の兵士だな!!!

お前のお陰で早く戦争が終わるようになったよ。

お前がいる限り、俺たちも最強だな!!!

明るくそう言う兵士たちを、黙ったまま見ている。
その場に誰もいなくなってから、はそばで倒れる指揮官と、
もう事切れてしまった敵軍兵士たちに視線を滑らせた。

「……死の……喜び。」

彼女はふいに呟く。
の言う通り、敵兵たちはみな、どこか微笑みを携えてるように死んでいた……。
まるで願っていた死が訪れたことに喜んでいるような……。








続々と兵士が帰ってくるのを、本陣にいた兵士たちが出迎える。
スザクもを出迎えるため、建物の外に出ていた。

土煙の中見えてくる、さらりとなびく髪。一瞬で誰かわかった。
」と声をかけようとしたが、スザクは言葉を飲み込んだ。

軽い怪我ですんでいるブリタニア兵に比べて、は決して、軽傷ではなかった。
服は大きく破け、おびただしい血が流れている。
頬には擦り傷がつき、頭を撃たれたのか、こめかみからも血が流れる。
それでも平気で立って歩いてくる彼女。
はスザクの姿に気付くと、彼のところまで歩いてきた。

……大丈夫?」

こめかみの傷に触れる。彼女の瞳が不思議そうに彼を見た。

「私には大丈夫……という言葉は必要ない。この血もどうせ、偽物だから。」

「でも人間は、こんなボロボロの姿を見せられると心配する生き物なんだ。
、早くロイドさんに見てもらおう?」

スザクはの手を握った。相変わらず冷たい。
彼女を引っ張って歩くと、は大人しくついてくる。
だが、厳しい声がの名を呼んだ。二人は同時に振り返る。

「コード000。東のほうで戦っている我が軍が苦戦している。至急、応援に迎え。」

「イエス、マイ・ロード。」

上官である男に向かって、は何のためらいもなく返事をした。
はブリタニア最強の兵士であるが身分は一等兵。
スザクの手から、すぐに彼女が離れていく。スザクは男を軽く睨みつけて言った。

「待ってください!!!は今、怪我をしていて戦える状況ではありませんっ!!!
早くロイドさんに見せないと……」

「枢木卿、コード000はサイボーグです。このくらい、どうってことはありません。
大袈裟に傷ついても、人間みたいに死ぬことはありませんよ。
それに……こちらとしてもこれ以上、犠牲を出すにはいかないのです。
コード000なら、壊れてもまた修理すればいい……。人間はそうはいかないんですよ……。」

男は少しだけ笑って述べた。
どこが笑うとこなのか分からない……。
「でも……!!!」とスザクが叫んだ時、の声が響いた。

「準備できました。これより私は、味方の応援に向かいます。」

手には銃、腰にはサバイバルナイフが刺さっていて、スザクをじっと見ている。
そしてまた、口を開く。

「スザク。心配しなくても私は死なない。
もしも壊れたら、ロイドに修理を頼んで。それじゃあ……。」

そのままは地面を駆け、そばにあったジープへと走っていく。
エンジンをかけ、今にも出発しそうな時、彼女はスザクを振り返った。
の顔には、『安心しろ』というような笑顔が少しだけ浮かんでいる。
それがどこか人間らしくてスザクの胸は高鳴った。やがてジープは走り出す。

スザクはジープが見えなくなるまで立っていた。
大丈夫だと心を落ち着かせるように何度も唱える。
仕方ないことなんだ、がまた、戦いに出ることなんて……。
だって彼女は、そのためだけに生み出された機械仕掛けの人形なんだから……。








そんなの分かっているけれど










僕はもう、君に傷ついてほしくない。その手を血で染めて欲しくない。
例え君が機械だったとしても……僕はが好き……だから。