「スザク、お前もしかして恋してるのか?」……なんて問われて、スザクの瞳はジノを見た。 「えっ……?なんで?」 柔らかい陽射しの差し込むカフェテラスで、スザクのスープを飲む手が止まった。 「や……だって最近、スザクの女遊びが減ったなって思ってさ。」 「別に……。」 瞳をジノから外して、スザクは飲みかけだったスープを飲む。 ナイト・オブ・セブンという地位にはいるが、彼だって思春期の少年。 言い寄る物好きな少女たちの誘いにのって、何回かは遊んでいる。 何回か……というのは、不適切かもしれない。 ユーフェミアが死んで、ぽっかり空いた心の隙間を埋めたくて、 何回も遊んでいる……と言ったほうが正しいか……。 ぼんやりスザクは考えた。 「なんだよー。相変わらず冷たい奴だな。 俺が相手してる何人かが、最近スザクが相手してくれなくなったって、嘆いてたぜ。」 「ふぅーん。ただ単に、飽きたんだよ。みんな同じような子ばっかりだしね。」 そう言葉を返した時、なぜだか少し手が震えた。 自分では分かっている。そんなの、言い訳だって。 本当は知っているんだ。女遊びを控えている理由。 「うっわ。言うねぇ……。 確かにみんな同じような子ばっかりで、飽きるっていうのは正直賛成できるけど……っと。 あれ、じゃないか?」 ふとジノが、ガラスの向こうに広がった中庭を指さした。 スザクの瞳はすぐに中庭へと向けられる。 そこに、軍服姿のがいた。歩いては空を見上げ、太陽に手をかざす。 目を閉じて風の音を聞き、しゃがんでは土をいじる。 その行動は、人間にしては変わっている。しかし彼女には当たり前の行動だった。 だって彼女は、機械だから。ブリタニアの最強の兵士。サイボーグ。 そんな彼女は生きている全てのものに興味を持ち、任務のない日はああやって、フラフラ政庁内を歩き回る。 時には図書館にこもり、1日中本を読んでいる。 「、またなんか考えながら歩いてるな。 てか、毎回あんなことして、よく飽きないよなぁ〜。」 「生物への理解を深めるために、必要なことだからじゃないかな。」 昼食の仕上げに、スザクはコーヒーを飲む。 「そんなもんかなぁ」と頬をついて呟くジノ。 中庭のは、今度スッと手を差し出した。 綺麗な羽を持つ鳥が、の腕にとまる。彼女はそれを見ていた。 スザクもそんな彼女から視線を外さない。 コーヒーカップを持ったまま、ジノのさっきの言葉を思い出した。 『スザクの女遊びが減ったなって思ってさ。』 (それは、目の前にいる彼女が理由だからだよ。) じっと、を見つめて思った。 心にあいた隙間を、を想うことで埋められる。 だから、今まで遊びで付き合ってきた少女たちが、必要なくなってきていた。 それはジノの言う通り、「恋してる」に値するんだろうなとスザクは思う。 でも、ジノにそんなこと言えなくて。 機械に恋をしたなんて、どんな顔をして言ったらいいのか分からない。 そもそも機械に恋する人間なんて、いるのだろうか……? ぼんやりそう考えていると、ガラスの向こうの少女が、少しだけ笑った。 スザクの心臓が、ドキンと跳ねる。同時にジノの言葉が響いた。 「って、ちゃんと笑うんだ……。今の、ちょっと可愛かったな。」 はにかむジノに、スザクはなんとも言えない視線を向けた。 「ジノ、もしかして、次はを狙うの?」 気付けば冷たくそう尋ねていた。彼は絶対に、否定すると思っていた。 それなのに、答えはスザクが思っていたものと違うもの。 「そうだな。なら、本気になってもいいかな。 そりゃ彼女はサイボーグだけどさ、機械を好きになっちゃいけないなんてルール、どこにもないだろ? なんとなくだけどはさ、俺たちが遊んでる女たちとは違う気がする。 アイツになら……何でも打ち明けられるような気がするんだ。」 そう言うジノの表情が柔らかくて……。 少し乱暴にコーヒーカップを置いたあと、すばやく席を立ったスザク。そんな彼にジノは少し驚く。 「おいスザク。いきなりどうしたんだ?」 「別に。ただ、君が本気なら、僕も本気になってもいいかなって考えただけ。」 そのまま彼は、カフェテラスから去っていく。 揺れるブルーのマントを見ながら、ふとジノが呟いた。 「やっと本気になったか、スザク。 お前、ホントはのこと、好きなんだろ?スザクには……負けられねーな。」 ニヤリと笑うジノ。 そんなやり取りがあったことを知らないは、先程の鳥が自由に空を飛んでいく姿をじっと見つめていた。 |