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カチャンカチャンとティーカップとスプーンがふれあう音に、リリィは体をこわばらせた。
少し伏せがちな目を上に向ければ、怪しいくらいの笑みを浮かべた人物がそこにいて。
リリィはまた、体を緊張させる。
何の話をしていいのやら分からない。相手も話題をふってくる気配がなく、
ただカップの中の紅茶をクルクル回しているだけだった。

「あの………シュナイゼル殿下?」

もう何十分も続いているこの状況に白旗を上げ、リリィが先に口を開く。
「ん………?」と相手が優しい微笑みを向けてくるのだから、彼女は顔を真っ赤にして困り果てた。
何をしゃべればいいのだろう………?
シュナイゼルと二人っきりで、お茶なんてしたことがない。
彼とお茶をしたことはあるが、その中には必ずユーフェミアかコーネリアがいて、
いつもどちらかがしゃべっているのを聞く感じだった。

「もしかして緊張しているのかい?リリィ。」

彼女の困り果てた表情を見て、シュナイゼルはカップのソーサに銀色のスプーンを置いた。
馬の模様があしらわれていて、チェスのナイトを思わせるようなスプーン。
リリィはそのスプーンを見ながら激しく頷く。
口が乾燥して、喉が張り付いている感覚。
目の前に出されている紅茶を飲めばいいのだが、緊張しすぎて今は紅茶が喉を通らない状況なのだ……。
シュナイゼルはそんな彼女をじっと見つめると、フフフと幸せそうに笑って呟く。

「そんなに緊張しなくたって大丈夫だよ。とって喰ったりしないから。
ただ、リリィが可愛くて仕方がないからずっと見つめていたんだよ。
そして、同時に考えていた。どうやったら君を私のものにすることができるだろうか………とね。」

「シュナイゼル殿下っ!?」

彼の言葉に顔を真っ赤にさせてリリィは立ち上がった。
驚きにより、目が大きく開く。
宝石のような彼女の瞳に熱い視線を送るシュナイゼル。リリィには彼が余裕に見えて仕方ない。
「またまたご冗談を。そうやっていつも周りの女性を口説いていらっしゃるんですね。」と呟きながら、
リリィは何事もなかったかのように座りなおした。
カップにかける手が少し震える。
そう、今の言葉はシュナイゼルのいつもの冗談だと、リリィは自分に言い聞かせた。
やっとの思いでごくりと紅茶を飲めた。もう冷めてしまった冷たい紅茶が喉を通っていく。
叶うなら、早くこの場から出てしまいたかった。でもうまい理由が見つからない。
一体この時間がどれだけ続くのだろうと彼女が考えていると、チャンスがやってきた。

「シュナイゼル殿下。殿下にお客様が見えております。」

「ん………?誰かな?私は今、リリィとお茶をしているんだけど?」

リリィとのティータイムを邪魔されたことを怒っているのかシュナイゼルは、
顔は笑っているのだがトゲのある声で部屋を訪れた部下に言う。
そんな光景を見つめつつ、リリィは内心ほっとした。
これでシュナイゼルとのティータイムが終わると。
彼のことは嫌いではないが、皇族なのでやはり肩身が狭い。
まだ同じ年代のユーフェミアや、姉的存在であるコーネリアがいたほうがよい。
ふぅとリリィは小さくため息をついて、紅茶を飲み干した。
その矢先……………。

「シュナイゼルお兄様っ!!!リリィと二人っきりでお茶なんて、私が許しません!!!」

威勢のいい声が飛び込んでくる。
ピンクの髪を揺らしながらユーフェミアが部屋の中に入ってきて、シュナイゼルをにらみつけた。
おやおやとシュナイゼルは目を丸くする。

「やぁユフィ。お客とは君のことだったんだね。
たまにはいいじゃないか。ユフィはいつもリリィを独り占めしているだろう?
私にもそういう時があってもいいのではと思ってね。」

「ダメですっ!!!お兄様はリリィをいつも口説こうとするじゃないですか!!!」

ぎゃあぎゃあと騒ぎあっている二人に苦笑しつつ、リリィはそっと席を立つ。
「私、お仕事に戻ります。」と控えめに呟きながら。
まるでいなくなったことに気付かないでと願うように。
しかしリリィのそんな努力も無駄に終わる。

「あらリリィ。どこに行くの?私とお茶しましょう!!!お話したいことがたくさんあったのっ!!!」

ユーフェミアによって、がたんとまた席に座らせられる。

リリィ。私とのティータイムもまだ終わってはいないよ?」

シュナイゼルに温かい紅茶をそそがれて、彼女は席をたつチャンスを完全に失った。
一体いつラウンズの部屋に戻れるのだろうかと彼女は心の底で涙を流しながら、
カップに注がれた紅茶に再び砂糖をいれ、ティースプーンを回す。
そんなリリィには気付かずに、ユーフェミアは笑顔で話し始めた。











sweet,sweet,sugar.






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