清正や正則がいなくなると、三成の頭上でクスクスと静かな笑い声が聞こえてくる。
怪訝そうな表情を浮かべ、三成は名前を呼んだ。

「……。」

「すいません。でも……可笑しくて。頭のいい三成様が大馬鹿者なんて……。」

見上げれば、木の上で一人のくのいちが上品に笑っていた。
三成はもう一度、静かに名前を呼ぶ。少し怒りを含んだ声だった。

「もう笑いませんよ。怒ってるのですか?三成様……。」

スト……と細い体が空からおりてくる。彼女の動きに合わせて、髪が揺れた。
三成はそっぽを向いている。

「冷静そうに見えて、気が短いのは変わりませんね。」

がため息をつくと、三成の腕が伸びてきた。
ぐいっと体を引き寄せられ、口元を覆う布の上から彼の指が這う。

「お前はそういう男を選び、仕えたんだ。我慢してくれなければ困る。」

唇をなぞる指。三成の瞳がだんだん熱っぽさを帯びてくる。
そんな三成を見て、はさらにクスッと笑った。

「ただのくのいちに、そんな熱っぽい視線を送る主なんて聞いたことございません。」

っ!!俺は本気でお前を……」

「三成様のお気持ちは嬉しいのですが、私はくのいち。
影に生き、影で散り逝く定め……。」

俯くの口を覆う布が、三成によって剥がされる。
強制的に上を向かされ、が「あっ」と思うころにはもう、唇は彼によって奪われていた。

「これでもう、俺からは逃げられないぞ、……。」

してやったような顔で艶やかに笑う三成。
ぼうっと主の瞳を見つめている
彼女は再び下を向き、呟いた。

「三成様、後戻りはできませんよ……。」

すぐに返事が聞こえる。「そんなの承知の上」だと。
まったく、この人は……。
そんなことを思いながらもはどこか嬉しそうだった。

主とくのいち。

その先に辛い未来が待っていようとも、今が幸せならば……それでいい。
ただ、後悔しないように今日を生きる……。








終焉への幸せ