その日、特派にはとスザクしかいなかった。
机の上に置かれた一枚の紙。
セシルの綺麗な字で、

『ロイドさんと買出しがてら息抜きをしてきます。夕方まで戻らないので特派の留守番をよろしくね。』

と書かれている。
現在の時刻は午前11時すぎ。
夕方までにはだいぶ時間があった。

「つまり、夕方までここにいろってことよね?」

がひょいと横から紙を見下ろしている。
スザクは「そうだね。」とつぶやきつつも、焦りを感じていた。
つまりそれは…………

と二人っきりってこと………?』

少し顔がにやける。

確かに恋人となった今、と共に過ごす時間はとても長くなっていた。
………というより、むしろスザクが『恋人』という言葉にこじつけてにくっついている。
鈍いはそんなことを全く考えていない。
スザクとは何故かいつも一緒にいるなぁ……それくらいの感覚だった。

「とりあえず私何か淹れてくるね。スザクはコーヒーと紅茶、どっちがいい?」

自分の横で小さく首をかしげる彼女。
その仕草がいつもより可愛く見え、スザクは慌てて目をそらした。
二人っきりという言葉が頭の中でぐるぐる回る。
いつもは可愛く見えるが、今日は特別可愛く見えた。

「なっ、何でもいいよ?の淹れるものだったら!!!」

「そう?じゃあ今日は紅茶にしようかなぁ〜。」

鼻歌まじりにが給湯室へと消えていった。
スザクは少し胸をなでおろす。

『やばい。今日は僕の理性が持たないかもしれない………。』

彼は一人苦笑していた。
なぜなら彼は、昨晩の体に触れたばっかりだったから。






しばらくすると、紅茶のセットを持ったがあらわれる。
それがスザクには心臓に悪かった。
こうしてみると、が自分と結婚したように思えて仕方ない。
さしずめ、これから夫婦のティータイムといったところだろうか。
もしと結婚したら、こんな感じなのだろうか……。
彼はぼんやりと考える。

彼女と自分の間にできた子供だったら可愛いだろうなぁ……とか。
男の子だったら僕に似ているかもしれない。
髪の色は僕に似ていて、瞳はと同じで、譲りのあの笑顔。
できれば男の子と女の子一人ずつほしい。
でももっといっぱいいてもいいかもしれない………。

そんなふうにスザクが意識を飛ばしていると、の声が耳に入り、
慌ててスザクが彼女のほうを向いた。

「あっ………っ!!!」

小さく上げられる声。
もう遅かった。
慌ててスザクが机に手をついたので、手が彼の前に置こうとしていたティーカップに当たる。
カップはひっくり返って、中身がスザクのズボンを濡らした。

「あつっっっっ………!!!」

「大変っ!!!!!!」

二人の声が部屋中に響く。
は慌ててふきんを取りに行く。
スザクはイスから立ち上がって自分のズボンをみた。
見事に紅茶が、ズボンの太もも部分のところにシミを作っていた。

「スザク大丈夫?相当沸かしたからやけどとかしなかった?」

乾いたふきんでがスザクの濡れた部分を拭く。
スザクは自分でやるといったが、は私のせいだからと、がんとして譲らなかった。

………これは……拷問に近いよね?分かってやってるの?』

イスに座るスザクの目の前にはの顔。
近い………近すぎる。
嫌でもの赤く、少し濡れた唇が目に入る。
とても麗しく見えてスザクは自分を抑えようと必死だった。
けどそんな彼に気付かず、はすっと顔を上げてスザクを一直線に見つめる。
彼の心臓が跳ね上がった。
彼女の困ったような顔が頭に焼き付いて離れない。

何も言わないスザクを見て、名前を呼び、不思議そうに小さく首を傾けた。
その仕草でスザクはついに自分が抑えきれなくなる。

いきなり彼女の肩をガッと掴むと、

が欲しい。」

とストレートに言った。
しばらくは無言のままだったが、意味を理解する。
みるみる顔を赤らめ、スザクに猛抗議した。

「ちょ………何言ってるのよ!!!放してスザク!!!それにそろそろお昼でしょ!!!
お昼ごはんにしないとっ!!!私が今から作るか………」

「いらない。でいい。っていうかがいい!!!」

スザクはそのままを抱き上げて別の部屋へと連れて行った。
彼女はわんわん騒ぎたてるが、部屋にはとスザクの二人しかいない。
テーブルの上で、虚しく紅茶が湯気を立てているだけだった。

を助ける味方は今日は外出…………のはずなんだけど………。









「セシル君、僕はスザク君の精神面を向上させる訓練を取り入れたほうがいいと思うよ〜?」

「そうは言っても、彼も思春期の男の子ですから。」

セシルが楽しそうに今やりとりされた一部始終をモニターを通して見つめて言った。
特派の別室。
彼らにバレないようにロイドとセシルがいる。
外出というのはウソ。
ロイドの思いつきで、スザクがどの位に耐えられるか実験していたのだ。
ロイドは時計を見てつぶやく。

「だって、ここに来てからたった30分だよぉ〜?早すぎるでしょ。
君も可愛そうに。こんな昼間っからあんな体力ありすぎる男の相手させられてさぁ。」

「思春期の男の子………ですから。」

セシルはそれしか言わなかった。
今モニターに映し出されているのは誰もいない特派の部屋。
この部屋に、二人はいつ帰ってくるのだろうか………?
夕方まで帰ってこないような気がして、ロイドは深くため息をついた。










特派には 二人でいては いけません。













「それじゃ、いただきまーす。」

「馬鹿スザクっ!!!」