アマラ神殿で3体目の異邦の神を退けたの元へ戻ってくる。
彼女は仲魔であるケルベロスのそばに立っていたが、
の戦闘が終わってすぐ、彼のほうへと走った。

っ!!!」

が両腕を広げれば、はその胸に飛び込んでくる。
ギュッと強く彼が抱きしめ、の胸に顔をうずめた。
そのあとすぐ、の体を確かめる。

、怪我とかしてない?どこも痛くない?」

細くて白い指が、の胸をはっていく。
苦笑しつつ、彼がグイッと彼女の腕を引っ張った。
再びは、の胸に戻ってしまう。

「俺は大丈夫だから。も、どこも怪我してないよな?」

「うん……。」

に抱きしめられたまま、小さく頷く。
一瞬だけ腕に力がこもって、すぐに体は離された。
もう少し抱きしめられていたかったなと、は残念に思う。
が小さく苦笑し、の唇に自分の唇を軽く重ねた。

「そんな残念そうな顔されたら、お前を離したくなくなる。
けど、勇が待ってるんだ……。聖さんも心配だし……。」

「ううん、ごめんね。
ちょっとだけ残念って思ったのは本当のことだけど、我慢する。
今はに甘えてる時じゃないし。」

彼の瞳が細められた。冷たい手がの手を握る。
は笑って言った。我慢しなくていいから……と。
手を繋いだままの状態で、二人はアマラ神殿の中枢に侵入する。
赤い空間の中に、人でなくなった勇が宙を見上げている。
目で追ってみると、聖が張り付けにされていた。

「聖さんっ!!!」

の声で勇も聖も視線を向ける。
彼女のそばには険しい顔のが立っていた。

「よぉ。やっと来たか。
相変わらず二人とも仲がいいな……。見ててイライラするよ。」

「新田君、聖さんを降ろしてあげて?」

は勇に語りかける。勇は鼻で笑った。
少し前の勇とは思えない彼の豹変ぶりに、彼女は少したじろいだ。

「コイツを降ろしてやって……か。
は誰にでも優しいもんな。けどな、
もしかしたらここにかけられてたのはお前だったかもしれなかったんだ。」

静かに勇がに近づく。
彼女に顔を近づけて、クンクンと犬のように匂いをかいだあと、
ニヤリと笑って言葉を続けた。

「やっぱりな。からは上質なマガツヒの匂いがする……。」

っ!!!」

すぐにが彼女を庇うように己の背中へと隠す。
舌打ちした勇が、を瞳に映した。
どこか鋭さを帯びているその瞳は、を怯えさせる。

……。確かにお前は俺よりもすげぇーよ。
勉強だって運動だって、お前のほうが上だった。
けどな、俺だってお前に負けてないものがあるんだよ。」

そこでチラリとを見る。
鋭い瞳はいつの間にか消え、彼女を戸惑わせるくらいの優しい瞳をした勇がいた。

が好きだっていう気持ち。
、俺はいつだってお前のことを考えてんだ。お前しか考えられない。
お前が俺と一緒に生きてくれるなら、俺は世界の創生なんてどーでもいいんだ……。
だから……。」

ゆっくり勇の手が差し出される。
は目を見開いて彼を見ていたが、瞳を伏せる。
の大きな背中に隠れたまま、小さく首を振った。

「……できない。私はが好き……。
新田君のことも好きだったけど、それはとは違う意味の好き……。
それに私は……」

の背中から姿を現し、まっすぐ勇をとらえた。
意志の強そうな彼女の瞳を見て、勇はますますが欲しいと思う。
しかしその願いは、叶うことがないと思い知らされる。

「私は新田君の開いたコトワリ、ムスビには賛成できない。ごめんね……。」

彼女の寂しそうな顔が瞳に焼き付くようだった。

「……勇。俺もお前には賛成できない。
他人が干渉しない世界を作りたい、そう思うのはお前の勝手だ。
けど、そんな世界を作ってどうするんだ?ずっと一人ぼっち……。
最初はいいかもしれないけど、その先いつか悲しくなるはずだ。
お前は今まで、たくさんの人に支えられて生きてきた。
今のお前は、それを分かっていない。
だから他人が邪魔だと、そう思うんだ。」

「うるせーよ!!!そんな綺麗ごと、聞きあきた!!!」

キッと勇がを睨んだ。
そして後ろを振り返り、何か言いたそうにしている聖に向かって手を差し出す。

「まぁ、アンタは運がなかったんだよ。
ここまでよく頑張ってくれたな。ゆっくり休んでくれ。」

「あぁ、そうさせてもらうさ。ちゃん……。俺はもう駄目そうなんだ。
これは俺からのお願いだけど……の手を、放すんじゃねぇーよ?
も、可愛い彼女を大切にな?
心まで悪魔になんかなるんじゃねぇー……。分かったな?」

最後に聖がニヤリと笑った。力強くは頷き、しっかりの手を握った。
そのそばで、ギリっと唇を噛む勇。
彼は静かに手をおろした。
聖の体が落下し、バシャンと水面に叩きつけられ、やがて沈んで溶けていく。

「聖さんっ!!!なんて酷いことをっ!!!」

は涙を浮かべての胸に顔を埋めた。彼もしっかりを抱き締める。
そんな二人を、複雑な気持ちで勇は見ているだけだった。
もう……走り出したら止まらない……。
いつしかが、鋭い目で勇を見ていた。まるで阿修羅の如く……。

「勇、お前はもう、俺の友達じゃない。だから次会った時は……全力で潰す。
お前も、お前が開いたムスビってやつもな!!!」

地の底から生まれるような低い声と、の小さな泣き声が重なる瞬間だった。






潰すのは、ムスビのみ