姉さんを花に例えるのなら、僕は真っ白くて気高いユリの花だと思う。

そう兄さんに言ったら、兄さんも笑って肯定してくれた………。








「あら、真っ白で綺麗な花ね。これどうしたの?」

「あ、それ………ロロが持ってきたんです。」

シャーリーが内緒話するようにミレイにこっそり教えた。ミレイはそれを聞いて目を丸くする。
なかなか生徒会になじもうとしなかったロロが、突然花を持ってくるなんてと彼女は思った。
花瓶に生けられているのは真っ白な花。
なんていう花か分からなくて、しげしげと見つめていると、扉が開いて本人が入ってきた。
すぐにそちらを振り返ったミレイ、シャーリーの二人と視線があうロロ。
「あ………」と小さく声が上がった。

「ねえロロ。これあなたが持ってきたんでしょ?これ、どうしたの?」

できるだけ優しくミレイが彼に尋ねると、ロロは少しだけ嬉しそうに答えた。

「花屋さんで見つけて……それで買ってきたんです。僕、その花好きだから。」

「そうなんだ。ねえロロ、この花なんていうの?」

今度はシャーリーが尋ねた。興味津々に白い大きな花を見つめながら。
ロロが答えようと口を開いた瞬間、後ろで声がする。

「ユリっていうんだよ。」

「スザク君!!!」

シャーリーがロロの肩越しにスザクの姿を見つけて名前を口にする。
ロロは振り返り、少し身長の高いスザクを瞳に捕らえた。
彼は「ごめん。」と軽く謝ったあと、にっこり笑った。でも笑ったと言っていいのかロロには判断がつかなかった。
顔は笑っているが、瞳は冷たい。ぞくりとするほどに。

「へえ、この花ユリっていうんだ。とっても気高い感じの花ね。」

ミレイがユリの花に触れて呟く。スザクは花に近づいて、「本当に、真っ白ですよね。」と言う。
ロロはじっと彼を見ていた。いや、彼以外は目に入ってこなかった。長い指が花びらの輪郭をなぞる。
その手つきが、とても花の輪郭をなぞるような手つきではなくて、ロロは顔をしかめた。
さっきまで冷たかったその瞳が、ユリの花を見るときだけ優しくなる。
まるで大切なものを見ているかのように。
スザクを見ていると、自分の姉が汚されていくようでロロは拳をにぎった。
大またに歩いて、スザクとユリの花の間に入る。鋭い声で彼に言った。

「触らないでくださいスザクさん。」

「どうして………?」

ユリの花から視線を放したスザクは、再び冷たい目に戻る。
大切なものを奪われたような気分になって、ロロは呟いた。

「この花は、僕にとって大切だから。気高いユリの花は、僕にとってとても気高い存在だからです。」

いつもより主張するロロに、スザクは少し驚いた。
こんなふうに自分の意見をはっきりと言うロロは少し珍しいとさえ思える。
けれども、スザクだって黙っていなかった。

「ロロ、僕にとってもユリの花はとても気高い存在だよ。」

スザクが何を言おうとしているのか分かって、ロロはスザクを睨みつける。
おそらくスザクはのことを狙っている。
渡すもんか。自分の姉を………自分の大切な女性(ひと)を………。

「も、もう!!!二人ともケンカはやめなさいよ。」

雰囲気が悪くなったと感じたミレイが仲裁に入るまで、ロロとスザクはにらみ合っていた。

ユリの花。それはに似た、気高き花。









百合の花