白くて穢れのない百合の花。 ステアを花で例えるなら、僕は真っ先にそう答える。 それをジノに言ったら、「確かにそうかもな。」って同意された………。 生徒会室に向かう途中、僕は入り口から少し離れたところで足を止める。 入り口で、少し嬉しそうなロロがミレイ会長とおしゃべりをしていた。 彼の肩越しに、花瓶に生けられた真っ白い百合の花が目に入る。 僕はそこにステアがいるって錯覚を覚えてしまった。 だってその気高き花は、あまりにもステアにそっくりだったから。 「そうなんだ。ねえロロ、この花なんていうの?」 ミレイ会長の声が聞こえて、とっさに僕は答えてしまった。 「ユリっていうんだよ。」 「スザク君!!!」 シャーリーが驚きつつ僕の名前を呼ぶ。 そばには少し不満そうな顔をしたロロがいる。 ねえロロ、僕は知ってるんだよ。姉と慕いながらも、君がステアを愛していることを。 そして僕は君に対していつも思うんだ。 残念だったねロロ。ステアは君のことを『可愛い弟』としか思ってないんだよ。 ロロににっこり笑いかけたのは、社交辞令。 本当はもっと、心の中でひどい感情が渦巻いている。どす黒くて、汚い感情が。 ミレイ会長が感心したように呟いた。とても気高い感じの花だと………。 僕は固かった表情を和らげて、無言で花びらをなぞる。 すぐさま、濡れた瞳をしたステアが目に浮かんで、僕の目は自然と柔らかくなった。 君の頬に触れたくて。 君の瞼に触れたくて。 君の唇に触れたくて。 僕はステアの顔の輪郭をなぞるように、長い指をツツーっと滑らせる。 僕の大切なものは何?僕の大切なものは、そう………ステア、君だよ。 ふいに僕とユリの花を遮断するものが現れた。 ルルーシュと同じ瞳の色をしているロロ。鋭い目つきで僕を睨んでいる。 握られた拳が少し震えていて、きっと手のひらに爪が食い込んでいるんだろうなと思った。 「触らないでくださいスザクさん。」 いつも温厚な彼からは想像もつかないほどの声が出た。 「触らないで」と主張する彼が珍しかった。いつもロロは自分を主張することを嫌う。 誰かと関わることを嫌う。そんな彼が敵意丸出しで関わってくることに、僕は驚いた。 「どうして………?」 「この花は、僕にとって大切だから。気高いユリの花は、僕にとってとても気高い存在だからです。」 きっぱりとロロが言う。 それはつまり、ステアに触れて欲しくないということなんだろう。 僕は心の中で笑った。可愛い弟と思われている君が、僕と張り合うってこと? でも僕だって負けてられないから。だってステアは僕のものだ。 「ロロ、僕にとってもユリの花はとても気高い存在だよ。」 黙っていられなかった。 そう言葉を返せば、ロロの瞳はますます鋭くなる。 冷たい目で、僕はそれをじっと見つめる。 しばらく沈黙が続いたが、ミレイ会長が仲裁に入ったため、勝負はおあずけとなった。 ねぇロロ、僕は君には負けないから。 ユリの花………。気高き彼女を手に入れるのは、僕だよ、ロロ。 |