昨日に引き続き、家族ごっこをやらされた。 今日は堂島もいるので、お父さんポジションのは、彼からの痛い視線に耐えていた。 この状況を説明してくれといわんばかりの目をに向ける。 「お父さん、今日も一緒にお風呂入ろうよ!!!」 「あ、ああ………。」 ちらりと本物のお父さんに視線をやると、背筋が凍りそうだった。 は急いで菜々子と風呂場に逃げ込んだ。 居間に残されたと堂島。 彼は台所のイスに移動して、鼻歌を歌いながら皿を洗う彼女に尋ねた。 「で、これはどういうことなんだ………?」 菜々子の父親は俺だ………という言葉が聞こえてきそうで、は笑って言った。 「ナナちゃんが言い出したの。 今日と明日だけ、お兄ちゃんがお父さんで、お姉ちゃんがお母さんになって欲しいって。」 「菜々子が………?」 きょとんとする堂島。 きゅっと水道の蛇口を閉めて、は手を拭きながら遠くを見る。 「学校で何を聞いてきたか知らないけど、子供ながらに憧れていたんだと思うわ。 お父さんとお母さんと自分とで食事を囲む普通の家族っていうのに………。 なんとなく、ナナちゃんの気持ちが分かって………。 私も、小さいころ、普通の家族に憧れたから。だからね、どうしても願いを叶えてあげたくて。」 「………。」 堂島は何もいえなくなった。 そういえば最近は、全く家にいなかった。 帰っても菜々子が起きないうちに仕事へと行っていた。 そのころ湯船の中で、菜々子もポツリポツリと話し始めていた。 「あのね、昨日学校でりかちゃんが言ったの。 晩御飯のハンバーグを、お父さんとお母さんとりかちゃんの3人で楽しく食べたんだって。 いつもよりおいしかったって。だから菜々子、お姉ちゃんに頼んだの。 お姉ちゃんがお母さんで、お兄ちゃんがお父さんになってって。」 ああ、だから昨日のご飯がハンバーグだったのかと、は思った。 「菜々子………。お兄ちゃんは、菜々子のお父さんになれた?」 にっこり笑ってそう聞けば、菜々子は嬉しそうに頷いて、 「本物のお父さんよりもお父さんだったよ!!!」なんて述べる。 堂島さんが聞いたらショックだろうな……と思い、苦笑を浮かべた。 お風呂から上がると、堂島の姿はなくなっていた。 お茶を飲んでいたに尋ねれば、仕事で緊急の呼び出しがあり、出て行ったと言う。 横で菜々子が目をこすり始めたので、は最後の父親の務めとして、菜々子を寝かしつけた。 彼女ははしゃぎ疲れたのか、すぐに眠りについた。 「、菜々子から聞いたよ。家族ごっこのこと。」 居間に戻ってきてみれば、彼女はソファーに座って本を読んでいた。 本をパタンと閉じて、近くに来たを見上げ苦笑する。 「ごめんね、急につき合わせて。お疲れ様、お父さん。」 最後はいたずらっぽく言う。 「ああ。」と生返事だけをして、はの隣に座る。 彼が何かを考えているようだったので、は不思議に思って名前を呼んだ。 「………?」 「あ、いや………。あのさ母さん……。」 今更そんなふうに呼ぶ必要ないでしょと笑ったら、はいつになく真剣に彼女を見つめた。 そのあと突然彼はを押し倒し、意地悪く笑う。 「女の子のほかに、男の子も欲しくないか?」 「ちょ………何馬鹿言ってるのよっ!!!」 「あははは。ジョーダンだって。」 の頭の横に手をつきながらは先ほど浮かべた意地悪い笑みを引っ込める。 さっと彼女の上からどくと立ち上がり、「おやすみ」と言って二階に上がっていった。 「も、もう………の馬鹿。何考えてんのよ……。」 は体を起こして真っ赤になった顔を両手で覆った。 二階に上がり、自分の部屋に入ったはそのままドアに体を預け、ズルズルと滑らせる。 「あぶなかった。もうちょっとでを襲うところだった……。」 彼はそう呟いて、頭を抱えた。そして夜はふけていく。 明日ちゃんと向き合って話せるだろうかと、お互い不安になりながら眠りについた。 |